[主張]菅新政権の政策を問う~自助・共助・公助~

公開日 2020年12月12日

 菅義偉首相は10月26日、第203回臨時国会の所信表明演説で、目指すべき社会像として「自助・共助・公助」を掲げ、「自分でできることは、まず、自分でやってみる。そして、家族、地域で互いに助け合う」と「自助・共助」を強調した。これは、裏を返せば「公助」の削減、すなわち、社会保障の削減を安倍前政権から引き継いで実施するという宣言である。

「自助・共助」を強調した安倍前政権

 安倍前政権は、「『我が事・丸ごと』地域共生社会」などのスローガンを掲げ、「自助」や「共助」を強調しながら、社会保障費の削減と国民の負担増を行った。2013年度から2020年度にかけて削減された、高齢化等に伴う社会保障費の自然増分は合計1兆8300億円にのぼる。

 他方で、2014年と2019年には、消費税率がそれぞれ8%、10%に引き上げられた。さらに、高額療養費制度の自己負担限度額の引き上げや生活保護費の減額、介護保険への3割負担の導入など、社会保障制度の切り下げが実施された。

 2018年には国民健康保険の財政運営が都道府県に移され、自治体による法定外繰入の解消が目指された。その結果、都内のほとんどの自治体で国保料が値上がりしている。金融審議会のワーキンググループが2019年に発表した報告書でも、「今後、公的年金の給付水準がさらに低下する一方で、税・保険料の負担は増加していく」として、金融商品への投資等による個人の資産形成を推奨するなど、「自助」が前面に押し出された。

「公助」の削減を継続

 菅首相は、安倍前政権の政策を継承し、全世代にわたる社会保障の負担増・給付減を企図する「全世代型社会保障」を推進する構えだ。10月26日の所信表明演説では、高齢者医療の見直し(75歳以上の後期高齢者の一部に対する医療費の窓口負担2割化)に言及し、その範囲をめぐって議論されている。そのほかにも、要介護者への介護保険サービスの総合事業への移行(保険外し)や、マイナンバーと預貯金口座を紐づけし、個人の金融資産の保有状況を医療保険の負担に反映することなどが狙われている。

 医療提供体制についても、病床数や保健所数を削減してきたことでCOVID―19への対応が困難を極めていることへの反省がない。いっそうの病床数削減を狙う、地域医療構想や公立・公的病院の再編・統合の方針を撤回する姿勢は見られない。

「公助」の拡充こそ必要

 日本国憲法第25条は、第1項において「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と国民の生存権を保障し、第2項では「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と国の社会的責務を定めている。社会保障において、国が十分な責任を果たすべきだ。

 COVID―19により、国民の生活は厳しさを増しており、「公助」の拡充こそが国民の切実な願いだ。協会は、菅政権が患者負担増の計画を撤回し、「公助」の責任を果たす社会保障政策に転換するよう強く求めていく。

(『東京保険医新聞』2020年12月5・15日合併号掲載)