[主張]2020年協会活動を振り返る

公開日 2020年12月23日

副会長 岡本 正史

■ コロナ禍で会員を支える活動を展開

 協会はいつも何やかやと忙しい。特に今年は診療報酬の改定があり、役員も駆り出され、例年よりも忙しくなる。そんな思いで迎えた2020年。その忙しさに輪をかける出来事が起こる。新型コロナウイルス感染症である。

 協会は2月に内閣総理大臣、厚労大臣宛に「新型コロナ感染症対策の強化を求める要望書」を提出する。それを皮切りに、その後も多くの要望、声明を発表していく。そんな中、診療所に異変が起こっていることが徐々に伝わってくる。その実態を知るべく数度にわたりアンケート調査を実施した。

 4月の集計では、一般診療所の94・1%で外来患者が、93・2%で保険収入が減少。患者、収入ともに50%以上減少した医療機関が、なんと30%を超えるという驚くべき結果であった。この事実を踏まえ、協会は厚労省内で記者会見を4回開催している。マスク等の医療物資の不足や減収による地域医療の危機的状況を説明し減収補填や助成制度の拡充を訴えた。更に、国会議員への要請活動にも力を入れた。病院のみならず、診療所も困窮していることを強く訴えた。現在も、その活動は弱めることなく継続している。

 共済部では、休業保障制度の運用を見直した。会員を支えるという理念から、「新型コロナウイルス感染症」に限り、一定の要件を満たせば、これまで認められなかったケースでも、特例として給付対象とするなど、柔軟な対応を迅速に決定し会員に広報した。

 「感染症対応従事者慰労金交付事業」や「感染拡大防止等支援事業」、その後に出された「診療・検査医療機関」等々、降って湧いたように出される政策は、説明や準備期間もなく、その上、その手続きは煩雑で分かりにくい。エクセルの操作に手を焼き、うんざりした先生も少なくないはずだ。協会はその解説や周知に努め、会員の先生方のサポートに注力した。お手上げの先生には来局していただき、申請用のCDを作成することもあった。一つひとつ上げればきりがないが、先生方を支える活動を展開し、そして、それは今も進行中である。

■ 社会保障を守ることは国の責務

 2020年はコロナで始まり、コロナで暮れていく。今年を一言で表現するとすれば「新型コロナウイルス感染症が、日本の医療政策・制度の脆弱性を露呈させた」ということであろう。

 私は2015年にも「協会活動を振り返る」を執筆させていただいた。その中で、新自由主義路線を推し進める安倍政権のもと、社会保障分野の歳出を切り捨て、その付けを医療従事者の無償の献身と犠牲という形で補わせようとすることへの警笛を鳴らした。今年は、それが現実のものになったと感じている。この5年間でも、保健所の体制縮小や病床の削減が行われ続けた。社会保障は、そんなにも不必要なものなのだろうか。

 国の使命はギリシャ、ローマの昔から「国民の生命と財産を守ること」である。他国の侵略から国民を守り、国民を貧乏にしないことである。そして、近世から近代にかけて、これに社会保障が加わった。国民を守り、国を発展させるためには、社会保障が必要だと気付いたからである。この3つこそが、国の最低限の責務であろう。憲法25条もそこに根差している。

 そういった意味で、私は自衛隊の存在を否定はしない。しかし、社会保障が国費を蝕む厄介者であるならば、戦艦大和を例に出すまでもなく、軍備費こそ、いつ使われる物かも分からない、無用の長物である。百歩譲るとして「百年、兵を養うは、ただ平和を欲するがのみ」であるならば、社会保障も同じく、百年に一度の疾病から国民を守るべく、十分な人材、ICUや病床の確保など、医療資源に余裕を持たせることが必要なのである。効率性と経済性ばかりを追求した医療制度は、いったん予期しないことが起これば脆い。近世において生まれた、社会保障という発想は、行き過ぎた市場原理主義から、節度ある調和のとれた資本主義への軌道修正であったと私は思う。それは21世紀の軌道修正であるSDGsにも通じる。

 医療を守ること、その先にあるのは、人々を守るということだ。コロナという困難と向き合う一人の医師として、胸に秘めた様々な思いを、この年の瀬に深く考えつつ、この稿を終える。