[主張]75歳以上の医療費窓口2割負担化を止めよう

公開日 2021年03月10日

 菅義偉内閣は本年2月5日、75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担を、所得によって1割から2割に増額することを閣議決定し、今国会に提出した(医療制度改革関連法案)。成立すればコロナ禍の所得低迷による受診抑制がさらに加速し、健康悪化を招く恐れがある。

 協会は、昨年12月7日に声明「75歳以上の医療費窓口負担2割化の中止を求めます」を発出したが、あらためてこの問題を考えてみたい。

■なぜ今なのか

 75歳以上の高齢者は新型コロナウイルス感染症の重症化リスクが高い。コロナ禍にあって少なからぬ人たちが、精神的にも経済的にも萎縮した生活を余儀なくされている。受診控えが常態化し、疾病・健康状態の悪化が指摘されている。

 このような中で、窓口負担増の議論を進めることは、人道上許されるだろうか。政府は負担増の導入時期を2022年秋頃としているが、コロナ禍が収束している保証もない。少なくともコロナ禍が収束し、社会的・経済的な状況を精査・分析した後で検討されるべきだ。

■2割負担の影響は甚大

 窓口負担が2割になるのは、単身で年収200万円~383万円未満、あるいは夫婦ともに75歳以上で年収の合計が320万円以上など、合計約370万人だ。外来受診者の約6割で自己負担が2倍になると試算される。年収が383万円以上の高齢者はすでに3割負担となっている。

 世帯主が75~79歳の夫婦世帯(平均)の場合、月収入23万3千円に対し、月支出は25万5千円で、家計は月2万2千円の赤字だ(総務省、2019年「家計調査」)。多くの高齢者が貯蓄を切り崩し、消費を切り詰めて生活している。これ以上の負担増を吸収できる家計の余裕はない。受診抑制によって、疾病の早期発見・治療が困難になる恐れがある。

 政府は負担増の施行後、3年間「配慮措置」を設けるとしているが、配慮措置下においても、その影響は甚大だ。試算では1人当たりの窓口負担増は、外来医療費は年間4万7千円→6万9千円(+2万2千円)、入院医療費は、年間3万6千円→4万円(+4千円)の増加が見込まれている。配慮措置の廃止後は、さらなる負担増となる。

■応能負担の原則を貫け

 老人保健制度が始まった1983年、高齢者医療費に占める国庫負担は45%であったが、後期高齢者医療制度の導入後は35%に低下している。高齢者医療費の3分の1しか国庫負担していないのでは、公的医療保険とは呼べない。国庫負担を45%に戻すべきだ。

 東京都では後期高齢者医療保険料の1人当たり年額平均が10・1万円を超え、全国でも過去最高額を更新した。医療は恣意的な消費ではなく、自己負担を受益者負担と呼ぶことは不適当である。高齢者の負担能力はすでに限界に達しており、これ以上自己負担を引き上げる余地はない。

 累進課税の強化、減らしすぎた法人税の回復、証券優遇税制の是正、資産課税、IT企業への課税、無駄な支出の抑制、などにより社会保障財源を確保するべきだ。

 私たちは、国民・都民のいのちと暮らし、健康を守る保険医の立場から、「75歳以上医療費窓口負担の2割化」撤回を求める。会員の皆様には、「75歳以上医療費窓口負担2割化撤回を求める請願署名」に、ぜひご協力いただきたい。

(『東京保険医新聞』2021年2月25日号掲載)