[主張]あらゆる観点から原発は廃止すべき

公開日 2021年03月18日

現在も続く福島原発事故

 東日本大震災から10年となる今も被災地の復興は道半ばだ。復興が遅れている最大の要因が、福島第一原子力発電所の事故にあることは間違いないだろう。2021年1月末時点で、約6万7千人が福島県外に避難している。

 核燃料取り出しの行程は遅れ、収束の見込みは立っていない。2月13日の福島県沖地震の後、1・3号機で原子炉格納容器の水位が低下しており、予断を許さない状況だ。溜まり続ける汚染水の処理方法として、国は海洋放出を検討しているが、海洋放出された場合、食物連鎖を通じた生物濃縮の可能性も指摘され、環境への影響は計り知れない。

 福島原発事故は決して過去の話ではなく、新しい被害が生み出され続けている現在進行形の問題である。
原発は地域を破壊する

 原発はたとえ事故が起こらなくても、平常運転自体が被ばく労働無しには成立しない。運転に伴い発生する放射性廃棄物には10万年以上の管理を要するものもあり、「核のゴミ」が際限なく増え続ける。

 地域が原発に依存することは経済的自立を妨げる。交付金の対象による格差や、原発誘致をめぐる対立が地域に持ち込まれ、コミュニティの分断を招く。

 そうして作られた電力の大部分は都市部で消費されている。先進国の大量消費の生活が途上国からの搾取によって維持されてきたのと同じ構図が、都市と地域で発生している。

隠蔽は原子力産業の本質

 原発には厳重な安全管理と、何重もの事故予防策が取られてしかるべきだが、実際には、福島第一原発を最大15・7メートルの津波が襲う可能性があるとの試算を2008年に得ていたにもかかわらず、東電は対策を取らなかった。

 国策として推進されてきた原子力産業をめぐり、産・官・学の関係者による巨大な利権構造が形作られてきた。批判的な議論は封じられ、原発の実態は市民にとってブラックボックスになっている。

 この「原子力ムラ」と呼ばれる構造がある限り、リスクの矮小化、情報の隠蔽や改ざんが止むことはなく、安全性は二の次のままだ。福島原発事故は起こるべくして起こったのであり、今後も起こりうる。

経済的にも割に合わない

 原子力発電は核分裂の熱で水蒸気を発生させ、タービンを回すという複数の行程を挟むため、発電効率が極めて悪い。また出力を変動させることができないため、出力調整用の発電所が別に必要になり、CO2削減に繋がらない。

 温暖化対策としては、省エネや再生可能エネルギーへの転換の方がはるかに有効であり、世界では原発から撤退する動きが続いている。規制の強化により事業費が高騰し、採算が取れないことから、日本が進めてきたイギリス、ベトナム、リトアニア、トルコ等への原発輸出計画はすべて頓挫した。東京電力の原子力損害賠償支払額の累計は2021年度に10兆円超となる見通しで、福島第一原発の廃炉費用はどこまで膨らむのか予測がつかない。

 今や原発は経済的にも「割に合わない」ことが国際的な常識だ。

エネルギー政策の転換を

 こうした状況にもかかわらず、日本は2014年4月のエネルギー基本計画で、原発を「重要なベースロード電源」と位置づけており、この方針は現政権でも変わってない。2021年3月1日現在、国内で4機の原発が稼働しており、さらなる増設も進められようとしている。

 福島原発事故の収束の目途が立たず、事故の原因も解明されず、誰も責任を取っていない中での原発推進は許されない。CO2削減を柱に据えたエネルギー政策に原発は不要だ。日本はただちに原発から撤退し、再生可能エネルギーの普及へと舵を切るべきだ。

(『東京保険医新聞』2021年3月15日号掲載)