新型コロナ「自宅療養を基本」既に破綻

公開日 2021年09月02日


東京都は自宅療養者等に貸し出すため、酸素濃縮装置
およそ500台を確保していたが、装置を使う患者が急増し、
8月17日現在、残りが1割を切っている

 新型コロナウイルス感染症の急激な拡大が止まらない。東京都では7月8日に4回目の緊急事態宣言が発令されたが効果はなく、8月5日には1日の感染者数が5000人を超過し、20日現在もピークが見えない状況が続いている。

 8月18日時点の報告で、都内の病床使用率は63・9%、重症者用病床は70・2%と、病床のひっ迫が深刻なものとなっている。8月15日までの1週間の救急搬送困難事案は全国で3361件に上り、このうち東京都が1837件と半数以上を占めている。

 政府は8月3日付で「現下の感染拡大を踏まえた患者療養の考え方について(要請)」を発出した。重症患者や重症化リスクの高い患者以外は自宅療養を基本とし、また、地区の医師会等や外部委託を通じて、自宅療養者の健康管理を強化する方針を示した。

 これにより、通常診療の他、新型コロナウイルス感染症の検査やワクチン接種等にもあたっている開業医に、新たに自宅療養者への対応が求められることとなり、現場には混乱が生じている。

自宅等療養者診療に加算も 在宅での対応には限界

 こうした中で、7月30日から自宅・宿泊療養者に往診・訪問診療を実施した場合に、1日当たり1回、救急医療管理加算(950点)、8月4日から訪問看護を実施した場合に、1日当たり1回、長時間訪問看護・指導加算(520点)、8月16日から電話等初再診料を算定した場合に二類感染症患者入院診療加算(250点)を算定可能とする特例が出されている。

 しかし、中等症患者については、これまで原則として入院の上で治療にあたることとされていた。現状、開業医が自宅療養者に行える治療の手段は限られている。また、在宅では症状の把握や急変時の対応に限界があり、危険である。自宅療養者の容体が急変し、入院できずに死亡する事例が全国で相次いでいる。

 現場からは、「既に重症者の入院調整も困難」「患者数の増加に追いつかず、酸素濃縮装置の供給が中断された」「20~30代の肺炎患者が珍しくなくなった」「政府方針は既に破綻している。実質的な『放置』ではないか」等の声が挙がっている。

 協会は8月5日に声明「『自宅療養を基本とする方針』の撤回を求めます」、11日に「新型コロナウイルス自宅療養者診療に際しての緊急要望書」を発出した。

新型コロナまん延は「人災」

 大阪府では、2020年12月~2021年1月、2021年4~5月にかけて病床がひっ迫し、4月21日時点で病床使用率が82・3%、重症者用病床は90・1%に達した。自宅療養の患者が溢れ、2021年1月の死者数は347人、5月は859人に及んだ。

 東京都でも同じ事態が起こる可能性は指摘され、感染力の強い変異株の流行も予想されていたにもかかわらず、国・都はPCR検査体制の拡充や、療養先の確保、休業補償等の必要な対策をとってこなかった。

 また、外出自粛や商店の休業を要請する一方で、感染拡大の危険性が高い東京オリンピックの開催を緊急事態宣言下で強行する等、矛盾した政策をとってきた。現在の新型コロナウイルス感染拡大は、こうした国・都の無為無策が招いた「人災」といえる。

 協会は、医療提供体制と療養施設の緊急確保、PCR検査の拡充、生活保障等、基本的な感染対策の確立をあらためて国・都に求めていく。

(『東京保険医新聞』2021年8月25日号掲載)