[主張]都立・公社病院 今なぜ独法化するのか

公開日 2021年10月15日

 4東京都は9月28日、都立8病院と都保健医療公社6病院を地方独立行政法人化し、「地方独立行政法人東京都立病院機構」を設立するための定款議案を、都議会第3回定例会に提出した。

コロナ禍中でなぜ独法化を急ぐのか

 第5波    による感染者の急増によって、自宅療養者が入院できず、病院外で死亡する事例が都内でも100人を超え、医療崩壊に至った。現在、都立・公社病院は全病床数の約28%、約2000床をコロナ病床に転換している。これは都内コロナ病床約6700床の約3割にも達する。東京都直営とそれに準じる公社病院の運営形態の特徴を最大限に発揮し、コロナ対応にあたっている。

 都は2022年度中の独法化を目指すとしているが、パンデミックとの闘いの最中に、独立採算が求められる独法化へと運営形態を変更することは大きなリスクを伴う。独法化によって、都立・公社病院の医療従事者は都職員からの身分・給与・処遇の変更を迫られる。感染リスクを顧みず、長期にわたってコロナ対応にあたっている職員に、転職等も含めたライフプランの検討を押しつけることになる。

独法化は地域医療・行政的医療の後退につながる

 すでに独法化された全国の公的病院では、昇給がなくなる、外部委託と非常勤職員が増えるなどの理由で、長期的な人材育成と専門技術の継承が困難になっている。その結果、コロナ下においてもコロナ病床を確保できないなどの事例が発生している。

 独法化は、経済性と採算を重視した効率的な運営を迫り、公務員を削減し、行政的医療の役割を果たすための税金投入を抑えるために、全国で導入されてきた手法だ。大阪では府立病院と市民病院の多くがすでに独法化されるなどして、コロナ禍での医療崩壊の最大の原因となった。

 東京都においては都立・公社病院をコロナ病床に転換させることで、機動性を発揮し、医療崩壊を防ぐ大きな役割を果たしてきた。都は「独法化は、医療ニーズの変化に柔軟で迅速な対応が可能」と説明しているが、これまでに独法化された病院の対応については、詳細な分析が必要だ。パンデミックの中で、都立・公社病院が果たしている役割についても、コロナ収束後に改めて評価・検討を行うべきだ。

 独法化を強行することは、東京都の地域医療・行政的医療の後退につながる。協会は都議会での定款議案の審議に抗議するとともに、他団体とも協力して、都議会各会派・都議会議員に対する働きかけを強めていく。また、独法化のリスクと危険性を広く都民に周知し、審議の中止を求めていく。

(『東京保険医新聞』2021年10月5日号掲載)