[主張]オンライン初診恒久化に反対する

公開日 2021年11月12日

 2020年4月10日から、新型コロナ感染症拡大に際しての時限的な措置としてオンラインによる「初診」が緊急避難的に認められてきた。これは、受診自粛のリスクと感染リスクとの兼ね合いの中で、利用が試され、エビデンスが検討されるのだとされてきた。一方、コロナ感染症においても、多幸感を伴う低酸素症や、無症状での突然死など、自覚症状に限定された診療の危険性が衆目を集め、注意が喚起されてきた。

 日本医学会連合も、「問診と画面越しの動画のみで診断を確定することのできる疾患はほとんどない」として、「初診のオンライン診療は背景の分かっている患者に対してのみ」と声明を出している。

 そうした中で、政府は「骨太の方針2021」において、初診からのオンライン診療について、何の検証もなく恒久化する方針を明記した。今後、厚労省のオンライン指針見直し検討会で議論を進め、この秋を目途に診療指針が改定される予定であったが、改定は先送りとなっている。

 そもそも取得できる診療情報が大幅に限定されるオンライン診療で、初診の患者を診るなどという行為は、疾患の見落としや誤診の可能性といったことだけではなく、「一人の病気は多くの人の心配、不幸」であるから、社会によって育成された医師などの資格職が、可能な限り科学的な知見に基づいて施行するという医療行為の基本を大きく逸脱する危険性がある。そこには、多職種のかかわりの可能性も乏しく、患者の歴史的な背景、生活の様子、家族との関係性も、情報として希薄になる。そのため、「人と人とのふれあい」を通して、それまでの生き方で「病を得た」患者が、これからの生き方を修正していく体験となる機会としての医療行為の存立が危うくもなる。

 オンライン診療を導入した国々では患者のなりすましも多発し、懸念されている。また、健康な勤労者の受診機会を確保するためなどというが、有症状者の通院時間を保障する労働条件の最低限の確保こそめざすべきで、オンライン診療を恒久化する等は本末転倒といわねばならない。「健康経営」をめざす企業群においても、従業員への健康投資として「かかりつけ医」を持つことの推奨をめざすのなら、勤労世代の休暇取得が容易になる環境整備こそが本質である。

 オンライン診療は限定された場合での対面診療の補完に留めてエビデンスの検討をすべき行為であり、初診からのオンライン診療の恒久化は、到底認められるものではない。

(『東京保険医新聞』2021年11月5日号掲載)