[主張]岸田新政権に望む 謙虚で誠実な政権運営を

公開日 2021年12月10日

 10月31日に投開票された衆議院議員選挙の結果、自民党は15議席減らしたものの、絶対安定多数にあたる261議席を獲得した。しかし、自民党の当選者と次点候補者の得票の差が1万票未満であった選挙区は全国で32もあり、薄氷の勝利であった。

 石原伸晃元幹事長が比例復活も叶わず落選、甘利明幹事長が自民党の現職幹事長として史上初めて小選挙区で落選するなど、有力議員の相次ぐ落選は、約9年に及んだ安倍・菅政権の運営手法に対する国民の不信を示している。実際、時事通信社の出口調査でも「『政権運営の在り方』を最も重視した」との回答が5・3%を占めている。

 岸田首相は首相就任後、その著書『岸田ビジョン―分断から協調へ』の序文を、「国民の皆さんが政治や政治家について知りたいと思うこと、疑問に思っていることに対して丁寧かつ徹底的に説明をし、納得いただく努力を重ねていきたい」と書き改めた。岸田内閣にはこの言葉通り、謙虚で誠実な政権運営を望みたい。

 新型コロナ対策や成長と分配の戦略を国民に丁寧に説明することはもとより、近年頻発した疑惑や不祥事の真相を究明して再発を防止し、説明責任を果たして国会答弁を改善するなど、閉鎖的な政治から決別できるかが問われている。

新自由主義からの転換を求める

 岸田首相は、「令和版所得倍増」「金融所得課税の見直し」などの分配施策を掲げて自民党総裁選に勝利した。「小泉政権以来の新自由主義からの脱却を目指す」という基本姿勢を評価したい。

 しかしわずか1カ月後の総選挙で、選挙公約には岸田首相が掲げる「新しい資本主義」の具体的な内容や実現の道筋、分配施策が盛り込まれなかった。「トリクルダウンは起きなかったと言わざるを得ません」として格差是正を目指した総裁選時の政策実現を期待したい。

 また、岸田首相は10月4日の首相として初の記者会見で「医師、看護師、介護士、幼稚園教諭、保育士などの所得向上に向け、公的価格のあり方の抜本的見直しを行う」とも発言しており、来春実施予定の診療報酬改定への影響を注視したい。

 日本は「新自由主義からの脱却」もせず、化石燃料に固執していては、世界からの立ち遅れを取り戻せないだろう。

早期発見・早期治療の体制づくりを

 新型コロナ対策については『コロナ対策4本柱』で示された「予約不要の無料PCR検査所の拡大と、簡易な抗原検査など在宅検査手段の普及促進」「年内の経口薬普及」の実現を望みたい。発症早期にかかりつけ医が抗ウイルス薬や抗体薬を投与できるようになれば重症化を防ぎ、入院患者を減らすことも可能になる。

拙速な改憲論議はやめよ

 総選挙では自民党と公明党、日本維新の会で計334議席を獲得し、改憲案発議に必要な3分の2(310議席)を超えた。改憲に前向きな国民民主党(11議席)も加われば、今後、改憲の動きはさらに加速するだろう。

 改憲発議には参議院でも3分の2(164議席)が必要だが、自民党、公明党と日本維新の会(計154議席)に国民民主党・新緑風会の15議席を加えると169議席となり、参議院でも発議のための議席数は整っている。

 「敵基地攻撃能力」の保有や緊急事態条項の創設は安全保障や人権保障の観点から、多くの懸念や批判がある。来夏の参議院議員選挙に向けて、拙速に改憲の議論を進めるのではなく、真摯で丁寧な国民的議論を求めたい。

 協会は社会保障の充実を求め、国民のいのちと健康、人権を守る視点から岸田新政権の政策に期待する。

(『東京保険医新聞』2021年11月25日号掲載)