[主張]オンライン資格確認 医療現場は求めていない

公開日 2021年12月10日

◆本格運用開始も導入施設はわずか

 10月20日、マイナンバーカード(以下、MNC)を健康保険証として利用できるオンライン資格確認の運用が開始された。しかし11月7日時点で、オンライン資格確認の準備ができたのは2万3110施設(10・1%)、運用を始めたのは1万4239施設(6・2%)にすぎない。医科診療所では4045施設、わずか4・5%であった。

 政府は「加速化プラン」と称して、2021年3月末までに顔認証付きカードリーダーを申請した場合の補助金を倍増させたほか、7~9月を集中導入期間と位置づけて、医療関係団体・公的医療機関・システム事業者等に対して導入を働きかけてきた。

 また、タレント・有名人を起用したCM動画の配信や、民間検索サイトとの提携を行い、「MNCを保険証代わりにする」ことを、メディアで大々的に宣伝してきた。だが、蓋をあけてみればオンライン資格確認に対応している医療機関は稀で、「本格運用」には程遠いといえる。

◆必要性も意義も見えないオンライン資格確認

 なぜオンライン資格確認が広がらないのかといえば、医療現場にとって導入する必要性もメリットも少ないということに尽きるだろう。

 まず費用面の問題がある。導入費用の奨励金には上限があり、さらに導入後の定期的なメンテナンスや改修等の維持費用は医療機関が負担しなければならない。

 事務的な負担も無視できない。原則として医療機関ではMNCを預からないことになっているが、高齢の患者など電子機器に不慣れな人の操作は、スタッフが手伝わざるを得ず、MNCの紛失があれば責任を問われかねない。資格確認にインターネットを使うために、情報漏洩やウイルス感染の危険性があり、電子カルテの安全性に対するリスクとなる。

 厚労省は「資格問題によるレセプトの返戻が減り、窓口業務を削減できる」としているが、本当に実態を把握しているのか。これまでは転職や転居で保険者が変わっても、持参した保険証で受診し、支払いは保険者間で調整していたが、MNCでは異動先の保険者がデータを登録するまでの間、資格確認ができない。この時、患者がMNCしか持っていなければ保険資格を確認できず、患者は医療費の全額を支払って、後日清算しなければならない。

 また現在は月1回の保険証確認が行われているが、オンライン資格確認は受診ごとに資格確認が求められる。システムに不具合があれば保険証で確認しなければならないため、結局のところ患者は保険証とMNCの両方を持ち歩かなければならず、煩雑である。

 コロナ禍で発熱外来や検査、ワクチン接種、自宅療養者の診療等々に追われており、医業経営が厳しくなっているときに、「なぜ今、時間と費用がかかるオンライン資格確認を導入するのか」というのが、医療機関の声だろう。

◆マイナンバーカードの強引な「普及」

 そもそもオンライン資格確認の最大の目的はMNCの普及である。さらに顔認証システムの普及、医療情報の転用、資産状況の把握などを進めれば、電子的信用評価(スコアリング)が可能になる。患者には利益が少なく、プライバシーを保護するシステムも、全く整備されていない。

 政府はこの間、保有率が低迷するMNCを普及させるために、予算を投じて様々な手段を取り続けてきた。2021年4月までにMNCを取得した人を対象に、キャッシュレス決済利用額の25%、最大5000円分のポイントを還元した「マイナポイント」もその1つで、この結果、2021年1月1日時点では24・2%だったカード保有率は、39・1%まで増加した。しかしMNCの有効期間は5年であり、書き換えには手数料がかかる。MNCを保険証と連結した人が保険証として使用を開始するには、オンラインでの届け出が必要だ。

 自民・公明両党は11月10日、新型コロナウイルス感染拡大に応じた支援策として、最大2万円分のマイナポイント(新たにカードを取得した人に5000円分、カードを健康保険証として使うための手続きをした人に7500円分、預貯金口座との紐付けをした人に7500円分)を付与する考えを発表した。

 衆院選時の公明党の公約よりも給付金額が少なく、最大5000円分のポイントに関してはキャッシュレス決済での「消費」が前提となっていることなど、様々な批判が上がっている。そもそも、新型コロナの支援とマイナンバーカード取得の有無とは全く関係がない。支援を謳うのならば本来一律に給付を行うべきである。

 新型コロナによる生活苦が蔓延し、感染や合併症への対策が必要な時に、MNCをお金の力で推進する理由が見当たらない。政策は国民の理解を得て進められるべきところを、買収まがいの方法で口を塞ぐのは明らかに民主主義に反しており、「弱みにつけ込んでいる」との誹りを免れない。

◆今まで通り保険証で資格確認を

 政府は健康保険証の将来的な廃止を目論んでいるが、それが現実のものになるか否かは、今後MNCの保険証利用がどれだけ拡大するかにかかっている。政府は2021年度末には9割、2022年度末にはおおむね全ての医療機関での導入を目指すとしているが、その具体的な道筋は立っていない。

 オンライン資格確認は、医療の必要性から作られたシステムではない。保険証1枚で全国どこでも保険診療が受けられる、わかりやすく安全な仕組みをわざわざ変える必要性はない。患者には今までどおり、保険証の持参で良いことを説明しよう。協会作成のポスターをぜひご活用いただきたい。

(『東京保険医新聞』2021年12月5・15日号掲載)