[主張]後期高齢者の窓口負担2倍化は中止を

公開日 2022年03月02日

 コロナ禍で高齢者の受診抑制が深刻化している。協会が2021年に会員に行った開業医実態意識基礎調査では、患者の受診控えによると思われる受診遅れ、重症化事例が「あった」との回答が26・3%にのぼった。慢性疾患や精神疾患の増悪、リハビリの減少による症状の悪化、初診時に既に重症化している等の例が多数挙げられ、癌などの重大な疾患の発見の遅れも報告されている。

 こうした中、一定の所得がある75歳以上の後期高齢者の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる医療制度改革関連法が2021年6月4日の参院本会議で、自民・公明両党などの賛成多数で可決、成立した。年収200万円以上(単身)、年収合計320万円以上(複数世帯)の後期高齢者約370万人が対象となる。引き上げ時期については、厚労相・財務相の大臣折衝で2022年10月からとされた。

 高齢になるほど収入が減少する一方で、医療にかかる機会は増え、治療も長期に渡る。完治せず、生涯にわたり症状と向き合わなければならない場合も多い。収入に占める医療費窓口負担の割合は、30~39歳が1・0%であるのに対し、75~79歳では3・9%、80~84歳で4・6%、85歳以上では5・9%に及ぶ。原則1割負担の現在でも、高齢者の窓口負担は過重である。

 この状況で窓口負担を2倍にすればどうなるのか。日本高齢期運動連絡会が75歳以上の高齢者に行った調査では、窓口負担が2割になった場合に「受診する科を減らす」「通院回数を減らす」「薬の飲み方を自分で調整する」等、受診を控えるとの回答が約3割を占めた。前述の開業医実態意識基礎調査でも、75歳以上の窓口負担割合の2割導入による影響について、「受診抑制につながる」との回答が60・9%にのぼっている。

 政府は窓口負担2倍化の理由として、現役世代の負担軽減を挙げているが、2割負担導入による現役世代の負担軽減効果はわずか月額約30円である。現在、国民の約25万人が育児と介護を同時に担う「ダブルケア」の状態にあり、介護等を理由にした離職は年間約10万人に及ぶ。また、家族の介護や世話をする子ども(ヤングケアラー)が、中学・高校生の約20人に1人の割合で存在する。高齢者への負担増は、現役世代に重くのしかかってくる。

 また、政府は痛み止めや湿布、漢方薬など市販薬のある薬の保険外しや、紹介状無しで大病院を受診した場合の定額負担の引き上げや、対象となる病院の範囲の拡大等、全世代に影響する負担増を進めようとしている。「現役世代の負担軽減」は社会保障削減のための口実に過ぎない。

 2割負担の対象については、国会審議を経ず政令による変更が可能となっており、将来に際限なく対象が拡大されることが懸念される。

 コロナ禍は、充実した医療・社会保障体制の必要性を改めて私たちに突き付けている。しかし、政府は2016~2021年度の6年間で社会保障費の「自然増」を計8300億円削減し、2022年度の予算案でも診療報酬の引き下げや75歳以上医療費窓口負担2倍化等によって2200億円を削減している。

 誰もがお金の心配なく、必要な医療を受けられるために、国は社会保障削減、低医療費政策から転換し、医療・介護提供体制の充実に予算を投じる必要がある。協会は、7月の参議院選挙での争点化を目指し、引き続き署名活動や国会議員要請等を通じて、75歳以上医療費窓口負担の2倍化中止を強く訴えていく。

(『東京保険医新聞』2022年2月25日号掲載)