[主張]新型コロナの診療は全て公費負担にすべき

公開日 2022年04月15日

 現在(3月21日)、全国では50万人以上の人が新型コロナ感染症により療養中で、死亡者はまもなく累計3万人に達しようとしている。高齢者での3回目のワクチン接種がすすみ、薬物療法が多少利用できるようにはなったものの、感染の減少スピードは緩やかで、重症者数は下がっていない。

 そのような中、新型コロナ感染症を自ら疑い受診した患者が、抗原検査で陽性が判明したにもかかわらず、当日の医療費として3割の費用負担が発生することに対し違和感を覚え、医療機関への不信を募らせる人が出現している。

 わが国では、多数の人びとが新型コロナ感染予防のために政府からの要請を受け入れ、マスク着用、社会的距離など無償で積極的に協力している特徴がある。また、医療機関の多くも、通常の健康保険医療に加え、感染症予防法に基づく煩雑な事務作業に追われることをいとわず、自宅療養中の安全確認連絡などの公費負担医療を担っている。

 どうして、このような気持ちの上での齟齬が生まれてしまうのか。

 本来、感染症予防法、新型インフルエンザ特措法での新型コロナ感染症対策では、国の責任によって、国民の人権たる生命の安全を守るために、感染防御を達成することが求められている。しかし、検査により陽性が確定する前に実施した初診料・再診料・院内トリアージ実施料などは、新型コロナウイルス関連の治療と認めず、同日であったとしても公費負担にしないと決めているためである。

 現行法以前の「伝染病予防法」では、伝染する恐れがある患者を隔離する「社会防衛」を目的とするという考え方だったため、隔離・入院・全額公費負担以外ありえなかったが、その結果、差別と偏見を生む温床になった。

 現行憲法のもとでの「感染症予防法」では、感染した患者の人権保護のために国や自治体の責任で、適切な医療を提供することが求められていることから、感染力や症状の重さにより、入院治療や感染防御された施設での療養などの治療に形は変わった。しかし、そのすべてを公費で行うのが法の趣旨からいって当然のはずだ。しかも、感染拡大が急速であったために、適切な「軽症者療養施設」の準備がまにあわず、軽症者や無症状排「菌」者が、自宅療養を余儀なくされているのが実態だ。法にいう「やむをえない事情のあるもの」は、国や自治体の責任によって生み出されているのである。

 そうした困難な状況を知っているからこそ、感染の危険のあった人々が、さまざまな不都合を承知の上で、医療機関を訪れて専門家の診療を受けているのである。「院内トリアージ実施料」も、「二類感染症患者入院診療加算」も、名称そのものが新型コロナ感染症予防のための医療機関と患者の行為であることを物語っている。

 新型コロナ感染症の治療は、他に併せ持つ疾患より、優先して治療法が考慮される。費用の負担方法だけが、コロナに対する公費負担よりも「医療保険を優先的に適用する」等との考え方はおよそ妥当とは言えまい。

 まん延防止等重点措置が解除され、新年度に活発な活動が再開された場合、新た変異株の出現があれば、次の「第7波」が起こるのではないかと懸念する声も出ている。

 国も、自治体も、医療機関も、住民も、可能な力を出し合っていくためには、医療機関における急性期の新型コロナ感染症の医療費の全額公費負担は最低限必要なことであり、早急な改善を要望する。

(『東京保険医新聞』2022年4月5日号掲載)