[主張]都立・公社病院独法化決定に抗議する

公開日 2022年05月13日

 東京都議会第1回定例会は3月25日の本会議で、都立・公社病院を7月に独立行政法人化する都立病院廃止条例、法人の中期目標などを自民、都ファ、公明、維新などの賛成多数で可決・成立させ、閉会した。共産、立民、自由を守る会、グリーンな東京、生活者ネットは反対した。

 採決に先立ち討論した斉藤まりこ都議(共産)は「質疑を通して、独法化を進める都の論理は全て破綻した。議員一人ひとりの決断が東京の医療体制に重大な影響を及ぼす。今ここで立ち止まろう」と呼びかけた。また、風間穣都議(立民)は「コロナ禍を脱していない中で独法化は拙速」と指摘した。

 一方、自民の石島秀起都議は「独法化のメリットを生かし成果を都民に還元を」と主張し、「安定した医療体制を構築し、通常の救急医療体制も確保すること」を要望した。

 入江伸子(都ファ)、慶野信一(公明)両都議は議案に賛成しながら独法化に一言も触れなかった。

 議会の審議は空疎で、これまで都民から寄せられてきた独法化を懸念する声に正面から答えるものにはなっていない。「独法化のメリット」とは具体的に何を意味し、その根拠はどこにあるのかも示されていない。このような状況で決議を強行するのは民主主義の精神にもとるものである。

 東京都は「歳出削減が独法化の目的でない」と述べている。だが「目的」が何であれ、ひとたび独法化されれば、病院は経営の効率性や独立採算を求められることになる。これは先んじて独法化された病院の実例を見れば明らかである。

 具体的には、職員給与の引き下げ、成果給の導入、非正規職員の増加、患者負担(個室料金、分娩料、保証金など)の増加等が行われる。一番の問題は、不採算医療の切り捨てであろう。また、独法化によって将来的な病院廃止や売却、完全な民営化を選択することが可能になる。

 大阪府では、2006年4月に府立病院を独法化し、府議会にも諮ることなく個室料や文書料等の住民負担を増やし、入院期間の短縮化等、採算優先の病院経営を推し進めてきた。このことは病床大幅削減と併せて、コロナ下での大阪の医療崩壊の原因となった。

 都内でも、2009年に独法化された板橋区の「健康長寿医療センター」では、病床が大幅削減され、有料個室の割合が約4分の1まで増加した。差額ベッド代や入院する際の保証金など、患者・利用者の負担が増加している。

 現に、独法化は「安定した医療体制」を破壊しているのであり、先の自民党都議の発言は事実に反する。

 都立・公社病院の独法化は、「都民のいのちを守る」という東京都の責務を放棄することにつながる。現在、本来であれば東京都や保健所が新興・再興感染症に対する行政的医療に責任を持つところ、民間医療機関が一般医療の受け入れを大幅に制限し、コロナ禍の医療提供体制を支えている。このために、がんや手術が必要な患者などが置き去りにされる状況が発生している。

 新型コロナのような新興感染症や災害に対応するために、公立・公的病院は必要不可欠である。医療とは必要性に基づいて提供されるものであり、効率や採算性には馴染まない分野である。採算が取れないからこそ、行政的医療は確保されなければならないのだ。

 協会は「都立病院廃止条例」の施行を中止し、7月からの都立・公社病院の地方独立行政法人への移行の撤回を引き続き求めていく。

(『東京保険医新聞』2022年4月25日号掲載)