[主張]総務省ガイドラインの方針転換 都立・公社病院独法化は中止を

公開日 2022年06月23日

 総務省が2022年3月29日、地方自治体に通知した「持続可能な地域医療提供体制を確保するための公立病院経営強化ガイドライン」に、公立病院の強化が盛り込まれた。総務省が方針転換した可能性がある。

 総務省は2015年に「新・公立病院改革ガイドライン」を掲げて公立病院の「赤字体質」を批判し、解決策として病院の「再編・統合」を進めて病床削減する方針を続けてきた。厚労省が2016年に「地域医療構想」と名付けて、高度急性期・急性期病床を20万床削減する計画を発表すると、病床削減は不動の方針となっていった。

 しかし2020年初め新型コロナ感染症が日本に上陸すると、たちまち病床不足に苦しむ実態が白日の下に晒された。

 日本は病床数が多いと言われ続けてきたが、日本の療養病床は諸外国では介護施設として数えられており、介護施設の不足を補ってきた。日本に多い精神科病床も、諸外国では医療機関とは別枠である。

 日本の病床数は過大に評価されており、特にコロナ感染者が入院する感染症病床と急性期病床の不足は深刻であった。

 さらに、低額な診療報酬のために設備が不足し、医師を始めとするスタッフも不足しているために、大部分の病床は軽症者しか受け入れられなかった。

 新型コロナ感染症の増加に対しては公的病院が中心となって感染症病床を増設したが、第3波では感染と診断されても入院できない患者が続出して救急外来が麻痺する事態が起こり、第5波では感染しても入院できずに亡くなる方が100名を超え、医療崩壊に至った。2020年3月末、新型コロナ拡大のさなかに、東京都は都立・公社病院の独立法人化の方針を決定して周囲を唖然とさせた。

 ところが今回のガイドラインでは「赤字解消」から「経営強化」に軸足が移された。複数の病院を統合して病床を削減すれば補助金を出すという「病床削減と統廃合」推進の文字が消え、今後は救急体制の連携づくりや、医師を派遣して不採算病院を維持するための特別交付税措置を行うことになる。厚労省は「統廃合ありきではなかった」「方針に変更はない」と弁解するが、実質的な方針転換である。

 これについて総務省は「感染症拡大時に公立病院の果たす役割の重要性が改めて認識された」としている。東京都の場合、1万床のコロナ病床が作られたが、3000床は都立・公社病院の力が基礎にあった。パンデミックは災害であり、公立・公的病院には災害、救急、周産期、障碍、精神、先進医療などの不採算部門を、行政的医療として担当する役割がある。平素から育成された良質な診療能力とチームワーク、そして機動的な財政力が災害時には必要だ。大阪府がコロナ対応のベッドを並べても、スタッフが揃わずほとんど活動できなかった事件は教訓的である。

 2019年9月、厚労省は全国約424の公立・公的病院の実名を挙げて、病床の縮小と再編統合を迫った。だが一つ一つの病院は地域の患者に対して責任があり、その経営は丁寧に論じられなければならない。2025年の後期高齢者の増加を目前にして、公立・公的病院を一括りにして20万床もの病床削減を進めると言う乱暴な手法は大きな反発を呼んだ。名指しされた病院からは抗議の声が上がり、東京都でも各病院の労働組合や労働団体、市民団体が問題点を検証し、都立・公社病院を守る運動が展開された。東京保険医協会も各種の集会や署名活動に参加して力を尽くしてきた。

 今回の総務省の方針転換の根底には、各病院が築いてきた診療の再評価と、新型コロナ感染症に対応した診療実績があるだろう。そして日本の病院が置かれている現状を明らかにする活動の成果だと思われる。

 だが東京都議会は、都立・公社病院の独法化を既に2022年3月に議決している。総務省が方針転換したからには、独法化を中止することが必要だ。もしも独法化が中止されなかった場合にも、ふたたび都立・公社病院に戻す活動を進めて行かなければならない。

(『東京保険医新聞』2022年6月15日号掲載)