[主張]医療のあり方を変質させる保険証廃止は許されない

公開日 2022年11月07日

「新たな制度」は必要ない 現行の保険証を残すべき

 10月13日、河野デジタル大臣は現行の健康保険証を2024年秋に廃止し、今後マイナンバーカード(以下、マイナカード)に一本化する方針を明らかにした。国民皆保険の下でのマイナカードへの一本化は、事実上のマイナカード所持の義務化と言える。

 加藤勝信厚生労働相は同日の記者会見で、マイナカードがない人も公的医療保険による診療を受けられるよう、「丁寧に対応を検討する」と述べたが、デジタル庁ではマイナカードを取得しない人に対して資格証明書を発行すると説明している。

 この点について、山添拓参議院議員(共産)が10月20日の参議院予算委員会で質問し、加藤厚労大臣は、資格証明書は保険料を納付している者に適用される制度ではないと明言した。これを受けて24日、後藤祐一衆議院議員(立憲)は衆議院予算委員会で岸田首相にあらためて質問し、首相は「資格証明書ではない制度を用意いたします」と答弁した。

 だが、新たな制度をこれから作るのなら保険証を残せばよく、制度設計も不十分なまま、マイナカードの取得を事実上強制するやり方は即刻撤回すべきだ。

医療のあり方を変質させる医療DX

 オンライン資格確認システムの導入義務化、健康保険証の廃止等が強硬に進められている背景には、同システムのネットワークが、政府・財界が進める個人の医療情報利活用の体系「全国医療情報プラットフォーム」の基礎と位置づけられていることがある。これらは単なる保険資格確認方法の問題ではない。

 政府の「医療DX推進本部」は10月12日、初会合を開催した。①全国医療情報プラットフォーム、②電子カルテ情報の標準化等、③診療報酬改定DXを政策の3本柱に据え、2023年春までに工程表を策定するとした。「医療DX推進本部」は自民党政務調査会が5月17日に行った提言「医療DX令和ビジョン2030」の実現を目指しており、同ビジョンには危険な医療政策が並べられている。

 標準型電子カルテの導入は、「全国医療情報プラットフォーム」実現のために不可欠な課題とされ、同ビジョンではまず3文書(診療情報提供書・退院時サマリー・健診結果報告書)・6情報(傷病名・アレルギー・感染症・薬剤禁忌・検査・処方)を対象として電子カルテの共有・標準化を開始し、オンライン資格確認等システムのネットワーク上で送受信できるようにすることが計画されている。

 同ビジョンでは、電子カルテそのものの標準化を強力に推進するとしており、電子カルテ未導入の一般診療所に向けて補助金を導入することが明記されている。オンライン資格確認システム推進と同様の手法が予測され、標準型電子カルテを無償提供することなどにより2030年までに「導入義務化」される危険性がある。

 最も重要なプライバシーである個人の医療情報を、このような形で抜き出し利活用することは、決して国民の了解を得ているとは言い難い。官製でIT業界の需要を創出し、医療のあり方を規格化、変質させることは許されない。

 協会は10月19日、保険証の廃止方針への抗議声明を発出した。引き続き、保険証を廃止する方針とオンライン資格確認システムの導入義務化の撤回を求める取り組みを強めていく。

(『東京保険医新聞』2022年11月5日号掲載)