[主張]2022年 協会活動を振り返る

公開日 2023年01月10日

副会長 吉田 章 

■ 2022年を概観する

 2022年はいつにもまして国内外社会も医療界も共に激動の年であった。国際的にはロシアによるウクライナ侵攻が、短期間で終わるのではという当初の予想に反して泥沼化し、米国を中心としたNATO対ロシアの戦いという様相を呈している。その影響はヨーロッパだけでなく全世界に及び、わが国も例外ではなく他の要素とあいまってエネルギー他物価の高騰が始まっている。

 国内ではCOVID―19流行が収まらない中、安倍元首相が暗殺されるという驚天動地の事件が起こり、それにより統一教会というカルト宗教が与党を中心とした政界に深く浸透していることが明るみに出て政界には激震が走っている。

 医療界では、COVID―19対応に追われているさなかの8月に、マイナンバーカード(以下、マイナカード)によるオンライン資格確認等システムの導入義務化が突然打ち出され、医療者の間に動揺が広がっているのが現状である。

■ 協会活動を振り返って

 当協会の活動は多岐に渡っているが、その柱となるのは、やはり保険請求対応であろう。

 保険請求は近年益々複雑化し、特にCOVID―19が流行してからは、臨時的取り扱いが複雑な上に度々変更され、一医療機関の情報収集能力では対応が限界に近くなってきている。そのような中で、当協会はいち早く、知識を更新し、会員からの問い合わせに迅速かつ適切に対応してきた。事務局の苦労は計り知れないが、この私も協会の助けが無ければCOVID―19関連請求がどれだけ滞ったか、考えたくもない。

 次に、オンライン資格確認等システム義務化だが、これは数々の問題点を孕んでいる(※)。政府は利便性を強調するが、現場の医師とかなり乖離があるようだ。現場の医師が利便性を感じているのなら、2021年10月から始まった同システムの導入率が、2022年5月時点で20%にも満たないなどという事態にはならなかったはずである。

 システム導入により、人的、経済的に大きな負担が予想されること、患者の医療情報が院外に出てしまう危険性や、院内システムを資格確認システムにつなぐことで生じるサイバー被害の可能性など不安要素をあげればきりが無い。

 これらの問題が何も解決していない2022年8月、同システムの義務化が突然打ち出された。同月に行われた説明会では「療養担当規則に2023年4月施行と書かれており、4月以降システム整備をしない医療機関は療養担当規則違反となる。そのため、個別指導の指摘事項となり、保険医資格取り消しの事由になりうる」と当局担当者が宣言した。

 医療現場が持つ疑問に対して、当局はまず「丁寧に」説明し、懸念を払拭すべきであり、導入機関がなかなか増えないからと言っていきなり義務化し、違反すれば保険医取り消しもあり得ると脅迫まがいの説明をして押し付けようとするなどもってのほかではないだろうか。

 不正請求や医療上重大な問題を起こしたのではなく、保険資格の確認方法をマイナカードと機械を使う方法に変えないという、診療以前の形式的事柄だけで、保険医資格取り消しという、保険医にとって死刑宣告に等しい罰を与えるというのはあまりに横暴ではないか。地域医療に与える影響をどう考えるのか。

 さらに10月には同システム普及を徹底させるためか、2024年秋を目途に保険証廃止が打ち出されたが、事実上のマイナカード取得の強制であるとして国民の間でも反対の声が挙がり、全労連が行ったインターネット署名は約3カ月で20万弱にのぼっている。

 協会会員の中からも、このシステムに対して懸念、反対の声が多数寄せられており、中にはこれを機に閉院も検討せざるを得ないという声も届いている。

 協会では、同システムの問題点を幅広く考察し、いくつかの論考を発表し、対策を模索してきている。また法律家とも共同し、行政訴訟等の手段もとれないか検討中である。保団連ほか各県保険医協会・医会だけでなく、一般市民団体とも協力して、私たち会員の医療遂行維持、すなわち患者の健康維持を継続していくつもりである。

 その他にも、当協会は会員の要望に基づき、診療遂行に資する多種の取り組みを進めていく。

 来年もよろしくお願いいたします。

(※)そもそも補助金支給の絶対要件が「顔認証付きカードリーダー」の利用であることが不可思議である。今まで顔写真すらついていない保険証で資格確認できていたものを、顔写真付きのマイナカードを使うだけでは足りず、さらに機器に確認させる必要性に関して納得行く説明はなく、補助金の支給要件であることの妥当性についても説明はされていない。

(『東京保険医新聞』2022年12月25日号掲載)