[主張]トリチウム汚染水の海洋放出中止を求める

公開日 2023年03月30日

 2021年4月、当時の菅首相は訪米前唐突に福島原発のALPS処理水の沖合への海洋放出を発表した。当然、内外から厳しい声が相次いだが、2022年7月、原子力規制委員会は臨時会議を開催し、東電のALPS処理水の海洋放出計画を許可した。

 報道によれば、当時、更田規制委員長はこう発言したという。「国際基準との間の考え方など…十分な議論が尽くされた。基準が守られる限りにおいて、人の健康や環境、地域の産品に影響を及ぼすことはありえない…漁業者の方々の心理的な抵抗は理解できる。ただ、福島原発の廃炉作業を前に進めるには苦渋の決断ではあるが、処理水の海洋放出は避けて通れない」。

 2023年3月の国会で岸田首相は「海洋放出は国際慣行に沿っている。世界の多くの原子力関連施設がトリチウムを含む液体廃棄物を海洋等に放出している。この春から夏頃までには開始したい」と述べた。

 現在、福島第一原発には汚染水1066基のタンクがある。ALPS処理水1026基、ストロンチウム処理水貯蔵タンク27基他、計132万㎥以上となっている。

 2022年10月、保団連公害部は「福島原発事故現地視察会」を開催し、被災者や関係者の方々から復興の厳しさを伺った。トリチウム汚染水の海洋放出は現在の計画でも30年以上要するとされている。東電は福島第一原発の汚染水の現状をこう述べている。「汚染水が一日に130トン流入し続け、海洋放出完了には少なくとも30年はかかる。廃炉完了予定の2041年~51年までより長くなる可能性がある」。さらに実際には、事故から12年経った現在もデブリ除去が困難を極め、廃炉の見通しすら全く立っていない状況である。海洋放出が一度開始されれば、際限なく放出が続けられることになる。

 2022年には日本の農産物の輸出額は増加しており、海産物ではホタテが人気だというが、トリチウム汚染水海洋放出により、福島の農水産物への長期的な風評被害の発生は確実だ。

 政府、東電はトリチウム汚染水の人体や生態系への影響はほぼないとしているが、実に乱暴な見解だ。放出された汚染水が均一に薄められる保証はなく、そもそも放出される総量も未確定である。内外の団体から汚染水管理の提案がなされたが東電、政府、規制委は真剣に検討してこなかった。この点も重大な問題だ。

 ロシアのウクライナ侵攻やアベノミクス破綻などの影響で、国民の多くが電気、ガス代の高騰に悩まされている中、岸田首相は2022年、GX(グリーントランスフォーメーション)と称し閣議決定で原発再稼働、稼働期間60年延長、原発増設等を矢継ぎ早に決定した。福島第一原発事故の教訓を無視した原発推進は、国民のいのちと健康を危険に晒す暴挙ではないか。

 協会はトリチウム汚染水放出の中止と同時に、原発回帰のGXの撤回を求めていく。

(『東京保険医新聞』2023年3月25日号掲載)