[主張]健康保険証廃止を止めよう

公開日 2023年04月28日

 政府は3月7日、健康保険証を2024年秋で廃止し、マイナンバーカード(以下、マイナカード)に一体化することを含むマイナンバー法等関連法案を閣議決定した。

 同法案は、保険証の廃止以外にも、マイナンバーの利用範囲の拡大、マイナンバーの利用および情報連携に係る規定の見直し、マイナカードの普及・利用促進、公金受取口座の登録促進など、多岐に渡る内容を一括した「束ね法案」だ。それらの一つひとつが個別に重大な問題を孕んでおり、本来丁寧な検討が求められる内容だが、一気呵成に進められようとしている(本紙2023年4月15日号「視点」参照)。

 医療の在り方に関わる重要な法案であるにもかかわらず、厚生労働委員会ではなく、「地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会」に付託され、4月14日に衆議院で審議入りした。

 法案では、現在の保険証を廃止し、マイナカードを持っていない人には、被保険者であることの「資格確認書」を交付するとしている。従来の保険証については移行期間として1年間有効とする。

 健康保険証は資格取得の手続きをすれば保険者の責任において交付されたが、新たな資格確認書では本人の申請が必要となる。また、有効期間は最長1年で、その度ごとに更新手続きが求められる。本人が手続きをしなければ保険診療を受けられない「無保険状態」となる。更新忘れ等により保険料を払っているにもかかわらず「無資格」「無保険」となる患者が発生する恐れがある。

 移行後1年間はマイナ保険証、資格確認書、従来の保険証の3つが混在することとなり、医療機関窓口の混乱は必至だ。資格確認書を交付する保険者の事務負担も増加する。

 保険証が廃止され、国民の大半がマイナカードのみで受診する状況になれば、オンライン資格確認に対応できず経過措置の猶予届出をしている医療機関は、廃業に追い込まれることになる。

 特に問題のない現行の健康保険証を廃止し、わざわざ有効期間が短く、発行・更新の手続きが必要な仕組みに変更することには、国民にマイナカードの取得を強要する以外の意味がなく、不合理そのものである。患者、医療機関、保険者のいずれにも大きな負担と混乱をもたらすことが明白であって、地域医療、ひいては国民皆保険制度の破壊につながることは確実だ。

 また、厚生労働省の社会保障審議会・医療保険部会では3月23日、「レセプトオンライン請求の割合を100%に近づけていくためのロードマップ(案)」を了承した。2024年9月までにオンライン請求に移行することをめざす。

 オンライン資格確認とオンライン請求の義務化、健康保険証の廃止はすべて、「医療DX」の一環である。国民の医療情報を収集・管理し、民間企業も含めて利活用していくことが狙われている。十分な補償もなく、突然期限を区切って外堀を埋め、追い込んでいく強権的な手法も一貫している。これらの政策には政府の責任で地域医療を確保する視点が欠落している。私たち医師には守秘義務があり、患者の医療情報を何としても守り抜く責務がある。求められているのは、国民の自己情報コントロール権を基盤とし、患者・医療現場の声に基づいた簡便で使いやすいシステムの構築であり、個人情報の集積が目的化したIT化に未来はない。

 地域医療と国民皆保険制度を守るために、協会は、「オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟」と共に、患者署名や国会議員、メディア等への働きかけを通じて、健康保険証の廃止を撤回させるための取り組みを強めていく。

(『東京保険医新聞』2023年4月25日号掲載)