[主張]保険証廃止法案の成立に厳しく抗議する

公開日 2023年06月24日

 保険証の廃止を含むマイナンバー法等関連法案(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律等の一部を改正する法律案。以下、同法案)が、6月2日の参議院本会議で可決成立した。

 協会が会員に対して実施した「オンライン資格確認システムトラブル事例アンケート」(以下、同調査)では、「マイナ保険証に他人の情報が紐づけられていた事例」が11件寄せられた。厚生労働省は他人の情報が紐づけられていないか調査を行うとしているが、解決の見通しは立っていない。同調査では、「オンライン資格確認ができず、窓口で一旦10割負担した事例」が70件以上にのぼった。マイナ保険証とオンライン資格確認システムの脆弱性が明らかになり、患者・国民および医療機関は混乱と不安の真っただ中にある。

 また、住民票と印鑑証明の誤発行、別人口座の紐づけなど、多数のトラブルとシステム破綻が明らかになった。マイナンバー制度の信頼性が根幹から揺らいでいる。発生したどのトラブルについても、調査・検証中であり、再発防止策が取られていない。

 このような中で、同法案を成立させたことに対し満身の怒りをもって抗議する。

 国会質疑を通じ、①保険資格を有することを示す健康保険証を被保険者に届けることは国・保険者の責務であるにも関わらず、申請が必要なマイナ保険証と資格確認書に置き換えるのは、責任放棄であり、国民皆保険制度の破壊である、②本人が申請手続きをしなければ、保険料を支払っているにも関わらず「無保険状態」となり、保険診療を受けられない。大量の「無資格」「無保険」者が発生し、日本国憲法第25条に基づく国民の受療権を侵害する―ことが明らかとなった。政府は申請主義への改悪によって、「無資格」「無保険」者が大量に生み出される問題について、具体的な解決策を提示できず、十分な説明と審議を尽くすことなく国民の自己責任とする姿勢に終始した。事実上のマイナ保険証の取得強要と、国民の健康といのちを脅かす受療権の侵害は、倫理上も許されるものではない。

 医療情報をはじめとする機微情報がマイナンバーに紐づけされ、利活用される仕組みは情報漏洩やプライバシー侵害のリスクを孕んでいる。国民はマイナンバー制度の脆弱性に気づいており、国民から信頼を得られない拙速なデジタル化はやめるべきである。

 医療機関窓口で健康保険証を提示して行う従来の資格確認は、国民皆保険制度の基盤であり、広く国民に定着している。健康保険証の廃止は、世界に冠たる国民皆保険制度の歴史に汚点を残すものだ。私たちは、改めて健康保険証の存続と同法案の廃止を強く求める。

※本主張と同内容の抗議声明を6月2日、内閣総理大臣・厚生労働大臣・総務大臣・デジタル大臣宛に送付しました。

(『東京保険医新聞』2023年6月15日号掲載)