[主張]骨太方針2023の閣議決定に強く抗議する

公開日 2023年07月26日

 政府は6月16日「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針。以下、骨太)を閣議決定した。

防衛費が社会保障費を圧迫

 政府が示した「2027年度までの5年間に、防衛費総額43兆円にもなる大軍拡を進める」方針は、予算の単年度主義を形骸化させる。閣議決定後すぐに渡米してバイデン大統領に報告し、既成事実化したことはいかがなものか。骨太には、スタンド・オフ防衛能力、統合防空ミサイル防衛能力、無人アセット防衛能力など、政府が重視する軍拡の7つの要素が示された。敵基地攻撃能力を保有し、専守防衛を逸脱する方針は憲法違反であるだけでなく、安全保障の観点からも疑問がある。2023年度税制改正大綱で「2024年以降の適切な時期」とされていた増税の時期は、「2025年以降の然るべき時期に判断する」と、決定を曖昧にした。軍事費と社会保障費は綱引きの関係にある。軍拡のための歳出が先行すれば、そのしわ寄せは社会保障費の削減となって現れる。介護保険の利用者負担拡大をはじめ、医療・介護の負担増計画を推進する方針が明記されている。

「異次元の少子化対策」の財源を語れない

 岸田首相肝いりの政策であるはずの「異次元の少子化対策」に沿う形で、児童手当の拡充、出産費用・医療費・高等教育費負担の軽減、「年収の壁」への対応等を計画する「こども・子育て支援加速化プラン」の内容が明記された。しかし、財源については、2030年代初頭までに子育て予算を倍増するとの記載のみで、具体的な計画については一切示されていない。岸田首相は「こども未来戦略方針」を閣議決定した後の記者会見で、社会保障の「徹底した歳出改革」を明言した。少子化対策は異次元に追いやられた。

診療報酬には公定価格の責任がある

 2024年度の診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬のトリプル改定に向けては、「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、患者・利用者が必要なサービスが受けられるよう、必要な対応を行う」との表現にとどまった。診療報酬は公定価格であり、医療機関は物価の変動を価格転嫁することが出来ない。2024年度改定においてはとくに物価水準との乖離を是正するため、基本診療料を中心とした診療報酬の引き上げが必要だ。

トラブル続出の医療DX

 45ページにわたる今回の骨太には、「デジタル」という言葉が81回も使用されている。昨年度に引き続き、▽全国医療情報プラットフォーム▽標準型電子カルテ▽診療報酬改定DX▽オンライン資格確認▽健康保険証の廃止▽医療情報の二次利用▽電子処方箋など、医療変革の項目ばかりが並んでいる。この間相次いでいるマイナ保険証関連のトラブルについては「正確なデータ登録を進める」とするだけで、医療DXの危険性や経済性を無視して突き進む政府の暴走が何を目指しているのかは理解しにくい。

 健康保険証を廃止してマイナンバーカードを押し付ければ、同カードや資格確認書を自ら申請できない者を置き去りにして、国民皆保険制度を破壊することになる。政府がこれまで謳ってきた「誰一人取り残さないデジタル化」は嘘だったのか。健康保険証は引き続き発行する必要がある。政府は共通番号で国民の情報を収集する同カードの普及を焦っているが、そもそも英、独、仏、伊など、共通番号のない国はたくさんあり、共通番号があってもほとんどの国はコストを嫌ってカードがない。

労働移動促すリスキリング

 岸田内閣が掲げる「新しい資本主義」は、構造的賃上げのための具体的な施策として、①リスキリング(再学習)による能力向上支援、②日本型の職務給の確立、③成長分野への円滑な労働移動を進める、「三位一体の労働市場改革」を示した。しかし、これらはいずれも転職推進策であって、非正規労働者の増加を招くものである。非正規労働者には賃金の保障がなく、公務員であっても一般に低所得であり、非正規化が経費節減の手段になっている。正規労働者を増やし、最低賃金を大幅に引き上げることが必要だ。

国会蔑ろの内閣独裁

 今回の骨太は政府の「閣議決定主義」を象徴するものだ。最高議決機関である国会の審議を行わず、閣僚と財界人らで国家予算の方針を決めて既成事実化するやり方は、民主国家に相応しくない。国政は一つひとつの問題を国会で論議して進めるべきであり、内閣独裁や、丸め法案の一括審議は、問題が多い。

(『東京保険医新聞』2023年7月15日号掲載)