[主張]薬剤の窓口負担 計画を撤回せよ

公開日 2023年11月09日

 9月29日の厚労省・社会保障審議会医療保険部会で、厚労省は薬剤の患者窓口負担を引き上げる議論を開始した。

 議論の基になっているのは、6月16日に閣議決定された「骨太の方針2023」である。同方針では、「創薬力強化に向けて、革新的な医薬品、医療機器、再生医療等製品の開発強化、研究開発型のビジネスモデルへの転換促進等を行う」と掲げられており、「医療保険財政の中で、こうしたイノベーションを推進するため、長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、検討を進める」とある。

 患者窓口負担を増やし、医療費に投入する公費を抑制しながら、浮いた財源を革新的な医薬品の開発支援などの創薬力強化に充てる狙いだ。

 薬剤自己負担の見直しに関し、9月29日部会で提示された案は、以下の4つである。

①薬剤定額一部負担
 外来診療や薬剤支時に、薬局窓口等において、幅広い薬剤に関し定額負担を求める。

②薬剤の種類に応じた自己負担の設定
 有効性等などの医療上の利益に基づき薬剤を分類し、各カテゴリ別に自己負担割合を設定。

③市販品類似の医薬品の保険給付の在り方の見直し
 OTC医薬品(薬局・ドラッグストア等で購入可能な医薬品)に類似品がある医療用医薬品について、保険給付範囲からの除外や償還率の変更、定額負担の導入など、保険給付の在り方を見直す。

④長期収載品の自己負担の在り方の見直し
 長期収載品について様々な使用実態に応じた評価を行う観点や後発品との薬価差分を踏まえつつ、自己負担の在り方を見直す。

 骨太の方針に記載のある「長期収載品の自己負担の在り方の見直し(先発品のうち、既に安価な後発品がある薬剤の自己負担見直し)」を中心として、年末までの方針決定を目指すとしているが、いずれの案にも大きな問題がある。

 薬剤定額一部負担や市販類似薬の自己負担については、繰り返し導入が画策されてきたが、その都度、患者・国民の強い反発を受け、導入は見送られてきた。

 定額一部負担は、低額の医薬品ほど相対的な負担が大きくなり、高齢者等、受診機会の多い層の負担が重くなるという本質的な問題がある。1997年9月に、処方される薬剤の種類数に応じた薬剤一部負担制度が導入されたが、2003年3月末をもって廃止されている。

 また、一部負担の引き上げは、2002年の健保法等改正法の附則第2条の「7割給付維持」の規定に反しており、このことは厚労省自身も部会資料で認めている。

 以前から政府は「セルフメディケーション(自己服薬)」の名の元に、OTC薬を推進してきたが、本来、薬剤が保険適用されるか否かは、薬の有効性や必要性に基づき決められるべき事柄である。医療上必要があって処方されていた薬が、類似の市販薬があるという理由で保険給付範囲から除外されれば、適切な医療提供ができなくなる。

 また、医療薬と市販薬では主成分が同一であっても、内容量が異なったり、効能・効果が異なる場合がある。患者の受診機会が妨げられ、自己判断による市販薬の服薬を続けることで、症状の悪化や副反応、重篤な疾患の見逃しなど、重大な健康被害が生じる危険性がある。

 そもそも、「骨太の方針2023」は、医療・製薬の産業競争力の強化を目指す経済的な視点で書かれたものであり、患者や医療現場からの視点は抜け落ちている。同方針を認めることは、「国民に必要な医療を保険で提供する」という国民皆保険制度の原則を崩すことに繋がる。

 高齢者への相次ぐ負担増(後期高齢者に対する2割負担導入と保険料引き上げ)、健保本人3割負担の定着によって、患者の自己負担はすでに限界に達している。協会は、国民を医療アクセスから遠ざけ、受診抑制を引き起こす薬剤の窓口負担増計画の撤回を強く求めていく。

(『東京保険医新聞』2023年11月5日号掲載)