[主張]PFAS汚染 国と都の責任で広範かつ迅速な対策を

公開日 2024年02月07日

永遠の化学物質PFASの有害性

 PFASは約5千種類ある有機フッ素化合物の総称で、代表的なものにPFOS、PFOA、PFHxSなどがある。歯科治療などに使用されるフッ化ナトリウムとは違い、炭素原子へフッ素原子を結び付けた人工的科学物質だ。耐熱、耐光、撥水、發油等に優れ、原子爆弾製造のウラン濃縮過程への採用に始まり、戦後は、コーティング剤、泡消火剤、半導体等に広く使用されてきた。自然界で分解しにくい安定性から、世界各国で土壌や地下水にも留まり、飲料水や農林水産物を介して人体内に浸透すると長期間残留し続けるという。米国毒性物質疾病登録庁によるPFAS曝露後の半減期は、PFOS3・3~27年、PFOA2・1~10・1年、PFHxS4・7~35年だ。

 PFASは、特定の汚染源がない地域で日常生活から取り込んでいる日本人の平均的な汚染でも、胎児・子供の発達障害や免疫・ホルモン異常が生じることが、岸玲子北海道大学教授等の研究調査などにおいても示されており、ごく微量でも被害リスクがあることが指摘されている。

 米国のデュポン社ワシントン工場によるPFOA曝露被害者への疫学調査では、①妊娠高血圧症・妊娠高血圧腎症、②精巣がん、③腎がん、④甲状腺疾患、⑤潰瘍性大腸炎、⑥高コレステロール血症への影響が確認された。米国科学アカデミーが2022年8月に公表した臨床ガイダンスでは、血液中における7種類のPFAS(PFOS・PFOAを含む)の合計値が20/㎖を超えると健康被害の恐れが高まるとし、その患者には特別の注意(診察、検査)を勧めており、「ストックホルム条約」等によりPFOS、PFOA、PFHxSは製造も使用も禁止されている。

国内の汚染実態

 多摩地域21自治体40浄水場で原水汚染があり、原水同士を混ぜて薄めても給水栓で測った際に、PFOS、PFOA合計で国の定めた暫定基準値50/ℓを超えてしまう11の浄水施設、34本の井戸で、東京都水道局が取水を停止していることがわかった。「多摩地域の有機フッ素化合物汚染を明らかにする会」が2023年に近隣の791人の血液検査を実施したところ、対象者の約46%が米国科学アカデミーの数値を超過していることが明らかになった。

 環境省がまとめた2021年度の河川や地下水の調査では、茨城、埼玉、千葉、東京、神奈川、山梨、愛知、京都、大阪、兵庫、奈良、福岡、大分の13都府県にまたがる81地点で、国の暫定基準値を上回った。環境省はPFOSとPFOAの国民の曝露の状況を把握するため、血液検査を2020年度から毎年実施しているが、地域を絞っており調査対象は年100人前後に過ぎず、健康被害は生じていないとしていた。2024年度から対象を全国調査に格上げし、ようやく東京都民も対象となる見込みで、対象者数が注目される。

隠されてきた汚染源

 環境汚染による健康被害を防ぐには、汚染源を特定し、汚染物質を隔絶し、曝露者に対する健康調査を行うことが欠かせないが、汚染源の特定についてはさらに後手を踏んでいる。

 多摩地域の地下水汚染は、西方から東方に向かう水脈のうち米軍横田基地の東側に集中しており、泡消火剤による訓練を頻繁に実施してきた同基地が汚染源の一つとして疑われている。2023年に、防衛省や北関東防衛局は、東京都などに対して正式に米軍より提供された資料から、同基地で3件の泡消火剤の漏出があったことを認めた(2010年1月、2012年10月、2012年11月)。米軍から2019年6月に露出事実が報告されていたのだが、2023年に照会があるまで公表していなかったのだ。米軍に忖度し、隠ぺいしたのではないかとの批判が強まっている。

 基地やPFAS製造工場周辺だけでなく、産廃処理施設、半導体製造工場近辺でもPFAS汚染が判明しつつあり、全国的な問題となっている。高度経済成長期に日本各地で発生した公害問題において、国の無策の前に東京都は1968年に公害研究所を設立し、環境を取り戻すための厳しい独自規制を設け、全国の先駆けとなり、国政をも動かしてきた。協会は、国が責任を果たし、東京都は独自のイニシアチブを発揮して汚染源を特定するとともに、地下水、土壌、農林水産物の汚染実態調査と、住民の健康影響調査を広範かつ迅速に実施するよう求めていく。
 

(『東京保険医新聞』2024年2月5日号掲載)