[主張]社会保障費の総枠拡大を

公開日 2024年03月06日

「防衛費2倍化」の下圧縮される社会保障

 2022年12月に政府が閣議決定した安保三文書には、敵基地攻撃能力の保有を明記するとともに、防衛費を5年間で国内総生産(GDP)比2%(現状の約2倍)に増額することが明記された。この方針に基づき、2024年12月22日に閣議決定された2024年度当初予算において防衛費は2023年度予算から1兆1277億円増の、過去最大となる7・9兆円にのぼった。他分野と比較してあまりに突出した、異様な予算配分だ。

 こうした防衛費の野放図な拡大は、競合関係にある社会保障費のこれまで以上の圧縮を促進する。

 2023年11月20日、財務省財政審は、診療所の経常利益率は高水準だとして、報酬単価を5・5%程度(診療報酬改定率で1%程度)引き下げるべきとの建議を出した。コロナ禍で最も収入の落ちていた2020年度を基準に恣意的なデータの抽出を行い、「診療報酬プラス改定によって、保険料が増大し、勤労者の手取りが少なくなる」など、国民と医師との対立を煽る同建議の論理には根本的な問題がある(本紙2023年12月5・15日合併号参照)。

医療・介護に共通する報酬削減の手法

 その後、12月22日に改定率、2月14日に診療報酬改定の内容が答申された。その内容を見れば、今次改定が同建議の路線を踏まえたものであることがわかる。

 初・再診料のわずかな増額では賃上げを行うには不十分であり、管理料や処方箋料の再編・引き下げにより、実質的なマイナスとなっている。光熱費や物価の高騰、コロナ禍以降の感染対策等による出費の増大は全く考慮されていない。

 医療に従事する職員の賃上げを行った場合の評価として、外来・在宅ベースアップ評価料ⅠⅡが設けられたが、基本診療料と別枠で賃上げの評価料を導入することは、賃上げのための負担を直接患者に求めることに他ならない。会員からは「一部負担が増えるため、患者が同評価料を算定している医療機関を受診しなくなる」「医療機関と職員、職員間の対立に繋がる」等の懸念が寄せられている。

 また、診療内容と直接関係のない項目に点数を付けて医療機関を誘導することは、診療報酬の出来高払いの原則を形骸化させる。同様の問題は、今回新設された医療DX推進体制整備加算についても言える。

 2024年度は介護報酬も改定されるが、訪問介護の基本報酬の引き下げが行われる。厚労省は、「処遇改善加算を14・5%から最大24・5%まで取得できるように設定した」としているが、小規模な事業所ほど上位の区分を算定しづらく、マイナスとなりやすい。訪問介護の基本報酬が引き下げられた根拠として、経営実態調査で、訪問介護の収支差率が7・8%と、全サービス平均2・4%を大きく上回っていたことが挙げられている。しかし実際には、人材確保が困難な中で人件費が減少した結果、数値上の利益率が上昇するという構造があり、経営状況を正しく反映したものとは言えない。

 恣意的に抜き取られたデータを基に、報酬引き下げを図る手法は、財政審建議とまったく同様である。

分断に乗らず社会保障費の総枠拡大を訴えよう

 医療・介護ともに、実質的な報酬を引き下げながら、賃上げを条件にした加算点数を設ける手法が用いられている。職員の待遇改善に繋がらないばかりか、「医療機関や事業所の賃上げのために患者・利用者の負担が増える」という形で、国民と医療者・介護事業者の分断が図られている。

 しかし、これは政府の社会保障費削減政策を前提に人為的に生み出された構図であり、社会保障費の総枠拡大によって、報酬の引き上げと患者・利用者負担の軽減を両立させることは可能である。防衛費2倍化や、マイナ保険証への一本化をはじめとしたDX関連予算等に際限なく予算を注ぎ込む歪みを糾すことが、医療・介護を存続させる唯一の道である。

 協会は、介護事業者や国民との連帯を強めて、社会保障の拡充を求めていく。

 

(『東京保険医新聞』2024年3月5日号掲載)