[主張]今次改定をどう見るか

公開日 2024年04月15日

職員の処遇改善に逆行する実質マイナス改定

 2024年度診療報酬改定では目玉として「医療従事者の賃上げ対応」が打ち出され、初・再診料の引き上げ、外来・在宅ベースアップ評価料ⅠⅡ、入院ベースアップ評価料の新設が行われた。一方、用途を特定しない、いわゆる「真水」の財源は全体の0・18%に過ぎず、物価・光熱費高騰や感染対策等による出費の増大や、医療の質の向上に背を向けたものとなった。重大なのは処方箋料(一律8点引き下げ)や薬剤情報提供料、管理料の再編等による引き下げ幅が上回り実質的に減収となることで、実態としては医療従事者・職員の処遇改善に逆行していることだ。

 「ベースアップ評価料」には①煩雑な手続きが求められる、②事務職員が対象外、③特例的な点数で将来的な継続が見込まれていない等、多くの問題がある。そもそも、基本診療料を中心に診療報酬を適正な値まで引き上げるべきであり、診療行為と関係ない「賃上げ」のための加算点数を設ければ、賃上げの原資を直接的に患者負担に求める形になり、患者と医療者の関係悪化に繋がる。

 生活習慣病管理料での月1回の受診要件の廃止や、複数の点数での「リフィル・長期処方に対応できる旨の院内掲示」の要件化など、受診回数を間引いての医療費削減を意図した変更が見られる。患者の容態変化の見落としや、自己判断での服薬中止による症状の悪化なども懸念される。

 10月1日から長期収載品の処方に関する費用の一部が、選定療養の仕組みを活用して保険給付から除外される。選定療養の仕組みを乱用し、薬剤の患者自己負担増に道を開いたことに断固抗議する。医療上の必要がある場合は除外されたが、事実上医師の処方権の侵害であり、「公的な」混合診療解禁にほかならない。

流行前から感染症対応を強いる不合理

 外来感染対策向上加算では、都道府県知事の指定を受けている第二種協定指定医療機関であることが要件とされた。第二種協定指定医療機関には、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症、新感染症等の流行に際して、発熱外来の実施や自宅療養者への医療の提供が求められるが、個々の感染症の感染力や症状の強さ等によって、医療機関の対応には限界があり、流行発生前から契約で縛られるのは不合理である。

 保健所等の公衆衛生機能の弱体化、感染症病床の不足など、コロナ禍が明らかにした地域医療体制の脆弱性を放置したまま、わずかな加算によって医療機関に負担を強いるべきではない。感染症対策は公費負担で行われるべき事柄であり、社会保険に賄わせることは誤っている。

マイナ保険証に予算を浪費

 数少ない改定財源の多くが「医療DX推進」に費やされている。オンライン資格確認等システム、電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスの活用促進に向けた評価として、医療DX推進体制整備加算が初診料に新設された。マイナ保険証によるオンライン資格確認利用にインセンティブを与えて、マイナ保険証の利用促進を図るものだ。

 しかし、根幹となるオンライン資格確認等システムは、数多くのトラブルが報告されており、今日に至るまで解消されていない。マイナ保険証の利用率は低下し続け、2024年1月時点で4・60%となっている。処方箋料や薬剤情報提供料など各種汎用点数を引き下げながら、医療機関と患者の双方にとって利点のない「マイナ保険証」推進に予算を費やすのは医療への冒涜である。

問われる国の責任

 以上は改定内容の一部であるが、今次改定における国の方向性を如実に示している。①実質マイナス改定を糊塗する形だけの賃上げ対応、②出費増への補填が必要という事実認識の欠如、③偏った予算配分、④医療現場への無理解、⑤医療の質や国民の健康に対する無関心。欺瞞に満ちた改定であり、コロナ禍で危険を冒しながら診療に当たってきた医療機関への、国の「評価」であり「回答」である。医療が果たす役割を軽視した今次改定に協会は断固抗議する。

 会員医療機関におかれては、日常診療を通じて、各科での影響や、新たに発見された改定点数の問題点、不合理点について、ご意見・要望を協会までお寄せいただきたい。

 協会は「保険医の生活と権利を守る」「国民医療の向上」を両輪として活動するとの理念に基づき、国の責任を明確にして、診療報酬の拡充と患者負担の軽減を共に求めていく。

 

(『東京保険医新聞』2024年4月5日号掲載)