公開日 2024年07月30日
防衛力強化のしわ寄せが社会保障に
政府は6月21日、2024年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)を閣議決定した。財政健全化を掲げて2025年度のプライマリーバランス黒字化と債務残高対GDP比の引き下げを目指すとしているが、防衛力の抜本的強化をうたい防衛費の大幅増が含まれる一方で、社会保障分野を中心に支出を削減する方針を打ち出した。
際限のない自己負担増
削減の標的としたのは国民向けの歳出だ。社会保障については、2023年12月に閣議決定した「改革工程」(全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋)を「着実に推進する」と強調し、社会保障削減の方針を並べている。
政府が定めた改革工程表では、75歳以上の窓口負担3割の対象者拡大、高額療養費制度の負担限度額引き上げ、介護利用料2割負担の対象者拡大、ケアプラン作成の有料化、要介護1、2の生活援助サービスの保険外し等を検討課題としている。
薬剤についてはスイッチOTC化等によりセルフケア・セルフメディケーションを推進しつつ「薬剤自己負担の見直し」を検討することで、保険給付外しや薬剤定額一部負担、薬剤の種類に応じた自己負担の設定等を狙っている。
このような自己負担増により受診抑制・利用控えがさらに進むことは必至だ。国民が安心して医療・介護を受けられるようにするために、これ以上の負担増には断固として反対する。
現場無視の医療DX推進
医療DXに関しては、健康保険証の新規発行停止を前提とした上で、電子カルテ情報の標準化、診療報酬改定DX、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の整備・普及を「強力に進める」としている。
医療技術の開発や創薬等のための医療情報の2次利用に向けた環境整備等が盛り込まれるなど、現場の実情を無視して「全国医療情報プラットフォーム」構築を一気に推し進めようとしている。
このような全国一元的な情報管理は情報漏洩リスクが極めて高く、漏洩した場合の被害は甚大なものになるため容認できない。
医師数削減を検討
医師の地域・診療科等の「偏在」を是正するとして、経済的インセンティブによる「偏在」是正、医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の大幅な拡大等の規制的手法を組み合わせた「総合的な対策のパッケージ」を作成するとしている。
2027年度以降の医師養成数については「適正化の検討」を行うとして削減の方向を示しているが、人材不足や医師の働き方に内在する課題を直視せずに安上がりな医療提供体制の構築を推し進めるものだ。政府は住民が地域で最期まで安心して医療にかかれる体制を目指すべきだ。
防衛費偏重・社会保障切り捨ての政治から脱却を
安全保障関連では、防衛力の抜本的強化の推進、在日米軍再編および基地対策の推進を図ること等を盛り込んだ。防衛力強化のための歳出については、「多年度にわたり計画的に拡充する」と例外扱いする方針を明記し、5年間で43兆円の防衛費に固執する姿勢を示した。
防衛費の大幅増のために社会保障を抑制していることは明らかであり、防衛費偏重・社会保障切り捨ての政治から脱却することが必要だ。
(『東京保険医新聞』2024年7月25日号掲載)