[主張]レセプトオンライン請求義務化に抗議する

公開日 2024年09月02日

 厚生労働省の社会保障審議会・医療保険部会は2023年3月23日、「レセプトオンライン請求の割合を100%に近づけていくためのロードマップ(案)」を了承し、2024年9月までに原則オンライン請求に移行することが盛り込まれた。これに基づき、厚労省は2023年11月30日に請求命令(省令)を改正し、光ディスク等による請求を「通常の請求方法」という位置づけから改め、経過措置期間後も光ディスク等による請求を行う医療機関には、移行計画の提出を求め、1年単位の経過的な取扱いとした。レセコン未使用および高齢医師等に認められていた紙媒体での請求についても2024年4月で打ち切られ、4月以降も紙レセプトで請求するためには当初の要件を満たす旨の届出が2月末日までに求められた。

 光ディスク等による請求を行っている医療機関にとって、猶予届等の提出期限(2024年8月31日)が迫っている。

省令での義務化は違憲

 2023年4月のオンライン資格確認(以下、オン資)等システムの導入義務化、また2024年12月2日の健康保険証の新規発行停止など、一方的に期限を区切って医療機関や患者を追い込むやり方は、この間の政府のデジタル政策全般に共通する手法である。

 しかし、レセプト請求権に対する新たな義務を法律ではなく、省令で直接課すことは「国会を唯一の立法機関」と定めた憲法41条に違反し、違憲であり無効である。法律によらず、省令で新たな義務を課す厚労省の手法については、2009年から2010年にかけて約2200人もの医師、歯科医師が原告となって争われたレセプトオンライン請求義務化撤回訴訟や、現在も東京地裁で係争中のオンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟でも繰り返し違憲・違法性が争われているところである。

 レセプトオンライン請求義務化撤回訴訟で厚労省は、2009年11月25日の厚生労働省令151号で義務化を撤回するに至った。同省令の概要説明で厚労省は「電子媒体による請求であっても、医療保険事務の効率化、医療サービスの質の向上等の政策目標は達成可能である」と回答している。過去の説明に反する政策を実行するのならば、その理由を厚労省は医療者・国民に合理的に説明しなければならない。

医療現場は義務化を求めていない

 協会が2023年6月26日~7月7日にかけて実施した会員アンケートでは、回答医療機関の74・9%がレセプトをオンライン請求しており、23・6%が電子媒体による請求、レセコンでの紙レセプト請求が0・2%、手書きレセプトによる請求は1・3%だったが、レセプトオンライン請求義務化に対して「賛成」は9・6%に過ぎなかった。

 オンライン請求への懸念については、「導入後のシステムメンテナンスや故障時の対応が不安」「セキュリティが不安」「ランニングコストが負担」などの意見が上がった。電子媒体請求医療機関では「現在の請求方法で不便を感じない」が最多で、「義務化されると廃業せざるを得ない」の声も8%を占めた。自由記述欄には、オンライン請求を行っている医療機関からも「義務化」は不要との意見が多数寄せられ、対応できずに閉院・廃業に追い込まれる医療機関が出ることを危惧する声もあった。

医療DXと連動したオンライン請求義務化

 レセプトオンライン請求は現在既に普及している。なぜ、このまま自然に移行するのを待つのではなく、地域医療体制が崩壊するリスクを負ってまで、期限を区切っての強引な義務化に踏み切る必要があるのか。

 先述のロードマップ(案)に「2023年4月からのオン資等システム導入の原則義務化を機に、光ディスク等で請求している施設にもオンライン請求に対応できる回線が整備されることも踏まえ…」との記載があるとおり、今回のオンライン請求義務化は、オン資等システム導入義務化と連動したものである。

 オン資等システムは、単なる保険資格の確認方法に留まるものではない。マイナカードと健康保険証の一体化、医療機関・薬局間、さらには自治体、介護事業所との医療情報の共有とマイナポータルで閲覧可能な体制構築(全国医療情報プラットフォーム)、診療報酬の共通算定モジュールを通した診療報酬改定DXなど、「医療DX」全体の基盤となるものである。レセプトオンライン請求用の回線は、オン資等システムでも主に利用される。「オンライン請求の割合を100%に近づけていく」ことは医療DX推進のためであり、医療現場の要求に基づくものではない。

 「健康保険証の廃止」や「医療情報プラットフォームの創設」は経済財政諮問会議が2022年に答申した骨太方針で打ち出された。現状の医療DXは経済界の要求によって推進されている側面が強く、医療者や患者の視点が反映されているとは言い難い。

 これまで築いてきた地域医療体制を、民間企業の利益誘導のために破壊することは許されない。協会は医療機関の現状を無視したレセプトオンライン請求「義務化」の撤回を求めていく。

 

(『東京保険医新聞』2024年8月25日号掲載)