公開日 2024年10月25日
2022年度診療報酬改定以来、マイナ保険証やオンライン資格確認に関係する診療報酬については、政府の方針に振り回され、期中改定を繰り返している。2024年度改定で新設された医療DX推進体制整備加算も例に漏れず、9月末日に経過措置の期限が切れることへの対応にとどまらず、大幅な改定となった。
通常、施設基準の経過措置は、具体的な基準を3月の告示又は通知の段階で明示する。しかし、同加算の「マイナ保険証の利用率が一定割合以上である」との基準については、具体的な割合を示せず、後で示すとされていた。
2023年12月にはマイナ保険証利用率が4・29%まで落ち込んでしまい、厚労省は施設基準に、医療機関窓口で「マイナ保険証をお出しください」等、マイナ保険証の提示を求める案内や掲示を行うことを要件化せざるを得なくなった。
医療DX加算の3段階再編 露骨な政策誘導
8月20日に告示・通知が発出され、医療DX推進体制整備加算8点をマイナ保険証利用率によって3段階に再編し、「加算1」は11点(利用率15%以上)、「加算2」は10点(同10%以上)、「加算3」は8点(同5%以上)とされた。さらに、3カ月ごとに利用率を引き上げるとし、2025年1~3月はそれぞれ利用率を2倍に、4月以降の利用率は年内をめどに示すとしている。
初めにハードルを低く設定することで多くの医療機関に届出をさせ、マイナ保険証の利用率を鑑みながら、3カ月毎に利用率を引き上げていく。常套手段の「梯子を掛けてすぐ外す」ではあるが、ここまで露骨な誘導は前代未聞だ。
マイナ保険証の強要 医院への圧力は言語道断
厚労省は5~7月を「マイナ保険証利用促進集中取組月間」とし、マイナ保険証利用率を向上させた医療機関への支援金の上限額を2倍に引き上げた。利用率はふるわず一時金等の支援を8月まで延長するに至った。
8月30日の社会保障審議会医療保険部会で厚労省は、「マイナ保険証の利用実績が著しく低い医療機関の中には、患者がマイナ保険証を使う機会を奪っているものも考えられ、その場合には、療養担当規則違反となる恐れがある」との見解を示した上で、「厚生局が個別の働きかけを実施する」とした。
診療報酬での誘導、支援金の増額でも利用率が上がらない中、厚生局を使っての指導まがいの働きかけ等、あらゆる手法でマイナ保険証を利用させたいのだろう。しかし、そもそもマイナ保険証の利用率が低迷している理由は患者・国民が利便性や個人情報保護の観点から不安を感じているためであり、医療機関への圧力など言語道断である。
医療現場を無視した政府・財界主導のDX
医療DX推進体制整備加算は、マイナ保険証の推進、電子処方箋および2025年度からスタートする電子カルテ情報共有サービス等の活用により、「質の高い医療を提供するため」との名目で新設された。政府・財界が推し進める医療DXへのインセンティブとしての評価だが、医療の質を担保するのであれば、何より基本診療料を一律に引きあげるべきである。
医療DXは、医療現場での利便性や個人情報保護の観点から構築されるべきであり、財界・政府から押しつけられるものではない。
(『東京保険医新聞』2024年10月5日号掲載)