[談話]オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟一審判決を受けて

公開日 2024年12月26日

オンライン資格確認義務不存在確認等請求訴訟一審判決を受けて

 


原告団長 東京保険医協会会長 須田 昭夫

 

 

 2024年11月28日は、東京地裁の大法廷が満席となり、入りきれない方々もおられました。全国各地から集まった皆様の、熱いご支援に感謝しております。訴訟を提起してから約2年間、オンライン資格確認システム導入「義務化」やマイナ保険証の押し付けに反対する、医療界の関心の高さが示されていました。

 

 しかし判決は「請求棄却」でした。全く想定外の判決でした。判決文には、国側の空疎な答弁ばかりが述べられていました。私たちが陳述した現実的な問題については、全く触れられていません。信頼に値する裁判長がこの判決を出すことには、「やはり政府はデジタル庁を潰すわけにはいかなかったのだろう」という感想を禁じ得ません。

 

国の理不尽な圧力から医療者を守るために


 マイナ保険証の運用は、2021年10月から本格的に開始されましたが、利用が進みませんでした。

 

 2022年8月、厚労省、医科・歯科医師会、薬剤師会が合同開催した説明会が開かれ、会の中で厚労省保険局の医療介護連携政策課長は、「保険医療機関が改正療養担当規則のオンライン資格確認の義務化に従わない場合、保険医療機関・保険薬局の指定取り消し事由となりうる」と発言しました。これは厚労省の決意表明と言えるもので、医療機関に対し、様々な負担や受付トラブルの上に心理的な重圧をかけるものでした。開業医の間には閉院や廃院を選ぶ雰囲気が生まれました。

 

 理不尽な力による廃業は、一人でも防止しなければなりません。話し合いによる解決は、河野デジタル相の強権的な姿勢が拒んでいました。私たちは、司法の介入が必要と考え、政府の行為が違法・違憲であることを訴える裁判を起こすことを決意しました。

 

 選挙の得票率が30%程度なのに、国会の議席数では圧倒的多数を占める自公政権は、閣議決定をあたかも国会決議のように扱って、数々の重要事項の変更を既成事実化してきました。国会で十分な議論を行うことなく強行するのは行政の越権行為です。健康保険法の委任がないにもかかわらず、療養担当規則でオンライン資格確認を義務づけることは許されず、マイナ保険証を前提にするオンライン資格確認は強要できないという訴えです。

 

 この訴訟が続く限り、「マイナ保険証による資格確認の義務化も、健康保険証の廃止方針も、決まったことではない」ということを一言で説明できて、閉院を考えている人たちを勇気づけると考えました。

 

 計画は綿密に検討され、行政訴訟を勝ち抜いてきた弁護士さんたちと、頻回の状況分析や打ち合わせが行われ、「裁判の結果を約束することはできないが、勝てる可能性は高い」と判断されました。

 

 原告団が100人集まれば訴訟に踏み切ろうと考えていたところ、最終的には1415人の医師・歯科医師による原告団になりました。

 

 訴訟を担当する岡田幸人裁判長は、過去の行政訴訟において、公平な実績がある方でした。裁判の過程では私たちが気づかないタイプミスを指摘して、書き直してくださったこともあり、真剣に担当していただいていることを実感していました。

 

「医療者の訴訟」から国民的な運動への広がり

 

 訴訟を提起した効果はすぐに現れました。市民団体が主催する「保険証を守ろう」という集会に参加すると、「お医者さんも参加してくれた。裁判も始めてくれてありがたい。元気が出る」という感謝の声が聞かれたのです。

 

 感謝したいのはこちらも同じでした。医療を守る運動は全国的に進めて、市民団体の協力が不可欠であることを痛感しました。とくに保団連が展開したトラブル事例の調査は、迅速・詳細で説得力があり、「保険証を守れ」の運動に共有されて、大きな推進力になっていると感じられました。

 

 保険証の新規発行停止を目前にした2024年10月でも、マイナ保険証の利用率が15・67%に過ぎないことは、国民の不信感の表れです。しかも70%以上の医療機関でトラブルがあり、「総点検」を実施した後でも、トラブルの発生率は全く変わっていないことが明らかでした。

 

 マイナ保険証を推進してきた自公政権は、先の総選挙で過半数割れを起こしましたが、裏金問題だけではなく、保険証廃止を批判する力も影響していたことは間違いありません。NHKの調査によれば、選挙中に保険証発行の継続を求めていた候補者が、当選した議員の55・1%を占めました。

 

控訴審へのご参加・ご協力お願い申し上げます

 

 第一審は力及ばず敗訴となりましたが、2年の間にマイナ保険証の取扱いは大きく変わったと思います。

 

 10月31日、マイナ保険証の押し付けに懸命だった厚労省やデジタル省が「12月2日を境にして医療現場が大きく変わることはない」「マイナ保険証がなくても、これまで通りの医療が受けられるので、ご安心ください」という広報を始めました。この厚労省とデジタル庁の突然の軟化は、今回の判決の下ごしらえだったのかもしれません。政府は「実を捨てて名を取った」とも考えられます。

 

 全国の保険医協会・医会の力を結集した保団連の力に感謝して、誇りに思います。全国的に「保険証を守れ」の運動を展開している市民団体の皆様の努力にも、敬意を表します。そして、私達の行動を国民に広く紹介してくださった報道機関にも、深く感謝しています。

 

 もちろん、今回の判決は、到底容認できるものではありません。私たちは控訴の手続きを進め、保険医療機関へのオン資「義務化」撤回のたたかいを続けていきます。原告の皆様におかれましては、東京高裁の控訴審に向けて、あらためて原告団へのご参加をお願いしたいと存じます。

 

 私たちは今後も国民皆保険を保障する制度のための活動を進めていく所存です。

(『東京保険医新聞』2024年12月5・15日号掲載)