公開日 2025年04月23日
病院有床診部長 水山 和之
病院の経営危機が叫ばれている。全日本病院協会など6病院団体の調査では、2024年度診療報酬改定後、医業利益の赤字病院割合は69%まで増加、経常利益の赤字病院割合は61%まで増加した。全国公私病院連盟の調査では、2024年度改定直後の6月の純損益差額が赤字の病院は全体の80・1%に達した。
帝国データバンクによると、2024年に市場から消えた医療機関は過去最多の786件(倒産64件、休業・廃業・解散722件)に達した。都内の病院でも老朽化に伴う改築等ができない等での廃業や人員不足等による病床削減のニュースが絶えない。
若い医師達が公的保険医療制度に絶望すれば、「直美」問題などの医師偏在も解決が遠のくであろう。今まさに公的、民間病院問わず、いや経営者、勤務医、開業医問わず、一致団結して社会のセーフティネットとしての地域医療を守らなければならない。
■病院の経営危機の原因は何か
まず第一に、急激な医療提供体制の変更である。
急性期病棟は「重症度、医療・看護必要度」スコアの高い患者を維持しなければならないが、2024年6月改定でスコアが改変され、急性期一般入院料1(7対1)で、患者のADL状況や意識レベルが評価項目から外された影響が大きい。さらに、入院日数の短縮を求められ、10対1も含めて静脈栄養に関する薬剤が除外された。
介護度の高い高齢者や、熱中症、脱水症、肺炎、尿路感染症などの内科的な疾患の患者は、看護職員の多い病棟で治療することが困難になってしまった。
そうした高齢者の急性期疾患を診る病棟として2024年度改定では、地域包括医療病棟入院料(10対1)が新設された。急性期からリハビリテーションを強化しているのが特徴だ。しかし、平均在院日数が21日以内とされ、在宅や福祉施設などへの退院計画を強化しないと、施設基準を満たせず、手上げ病院はまだ少ない。すると、多くの高齢患者は地域包括ケア病棟(13対1)や療養病棟(20対1)で診ていくことになる。
2024年12月に2026年度からの新たな地域医療構想が発表された。現行の地域医療構想は、2015年の医療計画で2025年の必要病床数を定めて作られたものであった。今回は、その体制から、一気に2040年を見据えた体制に変更となる。従来の「回復期機能」を担う病院に「高齢者等の急性期患者への医療提供機能」を追加し、「包括的機能」として位置付ける、とある。要は、少ない看護基準と少ない診療報酬で、高齢者急性疾患を診ろということである。
■人口構造の変化
第二に、少子高齢化から人口減少・多死社会への急速な移行である。
2024年の出生数は72万988人、死亡数は161万8684人、その差である自然減少は89万7696人でいずれも記録更新となった。
深刻なのは、平均寿命の短縮である。2020年まで伸び続けてきた寿命は、2021年、2022年は2年連続で短縮、2023年は少しだけ増加して男性の平均寿命は81歳、女性の平均寿命は87歳である。平均寿命の短縮は、比較的若い世代の死亡数の増加を反映しており、死因として悪性新生物や心疾患の比率の増加と関連するであろう。
さらに、死因として「老衰」が「脳血管疾患」や「肺炎」を追い越して、第3位まで浮上している。これは、在宅や施設での看取りが急増していることを反映している。ACP(人生会議)で、積極的な検査や治療を希望しない高齢者が増えているのではないか? 認知症の患者の増加も背景にあり、人生の最終段階の判断としては納得するところもあるが、個別にしっかりと評価しないと、年齢を理由に検査や治療を断念するという方向になりかねない。
■経済優先政策の弊害
第三に、経済優先政策が地域医療を壊していくということである。
コロナ禍で病院の経営体力が弱っていたところに、コロナ関連補助金が打ち切られた。経済優先政策に切り替えたところ、食料品価格、水道光熱費が高騰、医療関係の材料費、医療機器の価格、病院の建設費・修繕費も上昇し、病院経営を直撃している。しかし、診療報酬は公定価格であり、診療報酬の改定が物価上昇に追い付いていない。
人材確保への影響も大きい。東京保険医協会のアンケート調査でも、必要十分な勤務医や看護職員を確保できない、有料職業紹介事業者の手数料が高いこと等が明らかになった。ベースアップ評価料も手間がかかる上、他産業の賃上げに追いつかず、焼け石に水の状態である。
厚労省は2月に医療施設等経営強化緊急支援事業を打ち出したが、対象も限られ、病院の場合は許可病床数×4万円に過ぎない。期中改定も要望しているところであるが、実現性は厳しい。さらに、政府は、国民医療費を年間4兆円削減することを協議中である。これでは医療の安全性は守れないし、地域医療の崩壊は加速するであろう。
■解決策はあるのか
第一に、経済優先の政策を見直すべきである。高額療養費制度の上限額引き上げなどもってのほかだ。公助を軽視する政策は、先進国として失格ではないか?
第二に、インフレーションに見合った診療報酬改定をすべきである。条件の厳しい加算や補助金でなく、入院基本料そのものを引き上げるべきだ。期中改定を渋ってはいけない。このままでは、適正な医療を実施している病院まで倒産する危機がある。病院建設や修繕にかかるコストは別に支給する仕組みも急がれる。
第三に、医療従事者の再教育の仕組み作りが必要だ。看護職、介護職、その他の医療従事者の養成・育成は頭打ちである。外国人人材の活用も、なかなか進まない。コロナ禍で疲弊し離職した職員も多数いる。そのため、看護職などの医療従事者の再教育が現実的である。公的病院は、医療従事者の再教育・研修の場としても期待される。
第四に、病院の収益力を高めることが求められる。まずは、理念を見直し、「生きる力」を医療と介護で支援しよう。地域の医療必要度を考慮して、ある程度の統廃合は避けられない。しかし、それぞれの病院の強みを生かした診療に特化するなど、診療報酬で収益力を高める必要がある。地域の中で、高度急性期、急性期病院、回復期・地域包括、慢性期病院、介護施設、在宅医療機関がお互いの強みを理解して連携することが求められる。
東京保険医協会は、今後も引き続き行政に働きかけ、公的医療保険制度を守る活動を続けていく。
(『東京保険医新聞』2025年4月5日号掲載)