公開日 2025年06月27日
政府の長年の低医療費政策やコロナ禍での患者減と感染対策、そして物価高騰により、医療機関の経営状況の悪化は留まるところを知らない。
病院関係6団体(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会、日本慢性期医療協会、全国自治体病院協議会)が3月10日に公表した「2024年度診療報酬改定後の病院経営状況」調査結果によれば、医業利益の赤字病院割合は69%まで、経常利益の赤字病院割合は61%まで増加している。また、2023年度WAM(福祉医療機構)データの債務償還年数の分析では、半数の病院が破綻懸念先と判断される30年を超えている。
日本医療法人協会の試算では、2020年からの人件費、物価上昇を考慮したあるべき病院診療報酬増加必要分は7・10%であるのに対し、診療報酬の改定による補填は5・23%不足しているという。次回改定では過去の診療報酬での病院医療提供コストの補填不足部分と、改定後2年間に想定されるコスト増加分の対応を含め、10%を超える病院診療報酬の改定が必要だという結論を出している。
6病院団体と日本医師会は合同声明を3月12日に発表し、①『高齢化の伸びの範囲内に抑制する』という社会保障予算の目安対応の廃止、②診療報酬等について、賃金・物価の上昇に応じて適切に対応する新たな仕組みの導入の2点を要望している。
医療機関を守ることは国民的な要求
全国保険医団体連合会(保団連)が2月3日~3月7日に実施した「物価高騰に関する医療機関の緊急影響調査」において、東京都分の集計結果では、72%の医療機関が2024年1月と比べて収入が「下がった」と回答し、その約半数が1割以上の減収である。光熱費・材料費の高騰分や人件費を診療報酬改定で「補填できていない」との回答が実に9割を占めた。459件の回答中442件が診療所によるもので、医療機関の経営困難は病院に限った問題ではないことがわかる。
4月14日に開かれた自民党の社会保障制度調査会で厚労省が提出した資料でも、2023年度は利益率0~1%の病院・診療所が最も多く分布しているのに対し、2024年度推計では赤字の病院・診療所が最も多く分布するとしており、2024年度診療報酬改定後さらに経営が悪化したことが示されている。
診療報酬は公定価格であり、物価高騰分を反映することができない。スタッフの賃金を他産業と同じように上げることが難しくなり、その結果、他業種に人材が流出して、働き手がさらに不足するという悪循環が起こっている。
厚労省はWAMを通じて無利子無担保の融資を拡充する等しているが、病床削減と引き換えの貸付であり、そもそも、後に返還が必要になる融資では一時しのぎにしかならない。
医療機関の経営悪化に歯止めをかけようと、自治体の首長による国への要望が続いている。首都圏の1都3県の知事と5つの政令指定都市の市長でつくる九都県市首脳会議は5月8日、物価高の影響などで病院が深刻な経営危機に陥っているとして、診療報酬改定の速やかな実施などを求める要望書を福岡厚労大臣に提出した。全国知事会も5月15日、地域の医療機関などの物価高によるダメージを是正するため、社会経済情勢を踏まえた診療報酬改定を行うよう、仁木博文厚労副大臣に緊急要望し、5月16日には、全国20の政令指定都市で構成する指定都市市長会が、国に診療報酬改定の早期実施を要請することを確認している。
期中改定による診療報酬の大幅な引き上げと、補助金による緊急の対応が不可欠であることは、保険医協会・保団連だけではなく医療界の一致した見解であり、医療機関を守ることは国民的な要求である。
消費税の減税とゼロ税率適用を
諸物価高騰が続く中で、消費税減税を求める世論が高まっている。
消費税法1条2項には「消費税の収入については(中略)毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする。」と書かれているものの、消費税は使途を限定された「目的税」ではなく、この規定は消費税収の全てを社会保障や少子化対策に充てることを規定していない。消費税が法人税や所得税、酒税などと同じく一般財源として使われていることは、政府発表の資料「一般会計予算歳出・歳入の構成」からも明らかだ。事実として、1989年の消費税導入以降、国民の医療費負担増が続いている。
また、消費税は最終消費者が負担し、事業者は売り上げの消費税から仕入れにかかった消費税を差し引いて納税するのが原則だが、診療報酬は非課税なので、医療機関は仕入れにかかった消費税を差し引くことができない(損税)。物価が高騰すれば、その分損税の負担も医療機関に重くのしかかることになる。
協会は消費税の引き下げと、医療機関へのゼロ税率の適用を求めていく。
(『東京保険医新聞』2025年6月25日号掲載)