公開日 2025年07月18日
7月20日に第27回参議院議員選挙が投開票される。日本の針路に影響を与える重要な選挙だ。協会は主要候補者に医療・社会保障分野を中心に政策アンケートを実施した(2~4面参照)。各候補者の政策を見極める参考にしていただきたい。
社会保障の後退を許さず 拡充を求める
記録的な物価高騰、新型コロナの長期にわたる影響、消費税率の段階的引き上げ、国保料の高騰、医療費窓口負担増により、社会保障の後退と患者の受診抑制が引き起こされている。いつでも、どこでも、だれもが安心して医療機関を受診することができる「国民皆保険制度」が形骸化しつつある。
2025年の通常国会では、高額療養費制度の自己負担上限額の引き上げが問題となった。多くの患者団体や協会・保団連をはじめとした医療関係者の反対で見送られたが、2025年秋までに改めて方針を検討することになっている。選挙後に限度額の引き上げが行われないよう監視し、「白紙撤回」を勝ち取りたい。また、OTC類似薬の保険適用除外、病床削減など、医療費削減を声高に叫ぶ声が政治家の間で絶えることがない。コロナ禍で医療崩壊に至り、救えるいのちが多数失われたという反省はないのか、大いに疑問だ。憲法第25条第2項(「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」)に基づき、医療・社会保障の抜本的な拡充を政治に求めたい。
医業経営を守るための速やかな対応を
諸物価高騰が医療機関の経営に打撃を与えている。保団連が実施した「物価高騰に関する医療機関の緊急影響調査」において、東京都では72%の医療機関が2024年1月と比べて収入が下がったと回答した。また、光熱費・材料費の高騰や人件費を診療報酬改定で「補填できていない」とする回答が9割を占めた。診療報酬は医療機関の経営原資であると同時に、社会保障として患者の受ける医療の水準を決定づけるものだ。社会保障の充実ならびに国民皆保険の堅持の観点から、診療報酬の引き上げは不可欠だ。地域医療を支える医療機関を守るため、診療報酬の抜本的な引き上げと、機動的な補助金による支援が必要だ。
現場無視の「医療DX」の転換を
マイナ保険証をめぐっては医療現場で未だにトラブルが頻発している。保団連が実施した「マイナ保険証利用に係る実態調査(最終集計)」では、マイナ保険証のトラブルは医療機関の約9割で発生しており、持ち合わせていた保険証でトラブルを解決している医療機関は78%にも上っている。
このような状況で保険証を完全に廃止すれば、現場の混乱や国民の不安は増すばかりだ。後期高齢者への資格確認書の一律交付、渋谷区・世田谷区による国保加入者への資格確認書の一律交付、そして期限切れの保険証での受診容認により、すでに政府の目論見は破綻している。国民が安心して医療を受けられる体制を担保するために、政府は当面の措置として全世代に資格確認書を一律交付し、保険証の新規発行を再開すべきだ。
国は現在、オンライン資格確認やマイナ保険証等、「医療DX」の名のもとに医療機関に矢継ぎ早に対応を迫っている。その行き着く先は、全国医療情報プラットフォームを通じた医療情報の利活用だ。国の喧伝する「医療DX」は、医師の守秘義務への抵触や情報漏洩のリスクがある上に、医療情報を利活用した産業界の利潤追求や、国家による国民監視の構造を許すことになる。「骨太の方針2025」では、マイナ保険証を基本として全国医療情報プラットフォームの構築、電子カルテ情報共有サービスの普及や電子処方箋の利用拡大、PHR(Personal Health Record)情報の利活用の推進、標準型電子カルテの本格運用などが盛り込まれているが、これらの施策は患者・医療者のためのものとは言い難い。政府は現場の実情に寄り添い、患者・医療者本位のデジタル技術の活用策を講じるべきである。
私たちの生活は「政治のあり方」に大きく左右される。いのちを守る政治を選択したい。棄権をせず、主権者として貴重な一票を投じよう。
(『東京保険医新聞』2025年7月15日号掲載)