公開日 2025年07月28日
政府は6月13日、「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太方針2025)を閣議決定した。「経済あっての財政」を基本方針とし、経済再生と財政健全化の両立を掲げる一方、社会保障については「持続可能な社会保障制度のための改革」として実質的な歳出削減策が列挙された。
3党合意文書をなぞった社会保障改革
本方針の社会保障に関する記述には、6月11日に自民党・公明党・日本維新の会の3党によって交わされた「社会保障改革に関する合意」が色濃く反映されている。
3党合意書で掲げられた6項目①「OTC類似薬の保険給付の在り方の見直し」、②「地域フォーミュラリの全国展開」、③「新たな地域医療構想に向けた病床削減」、④「医療DXを通じた効率的で質の高い医療の実現」、⑤「現役世代に負担が偏りがちな構造の見直しによる応能負担の徹底」、⑥「がんを含む生活習慣病の重症化予防とデータヘルスの推進などの改革」はそのまま骨太方針に盛り込まれた。
3党合意文書・骨太方針ともに、現役世代の負担軽減を目指すこととされているが、例えば、OTC類似薬の保険外しが実行されれば、現役世代を含む国民全体の負担増に跳ね返ることは確実である。子どもや慢性疾患患者、低所得者の負担を配慮する旨の記載はあるが、医療現場から見ればその切り分けが容易でないことは一目瞭然だ。小児医療で子ども医療費助成の対象外となった場合には、現役世代の家計を直撃することになる。さらに受診抑制による健康被害やOTC類似薬の不適正使用など、様々な問題点が噴出することは必至だ。
フォーミュラリ(Formulary)は処方、処方書集を意味し、地域フォーミュラリは「地域の医師、薬剤師などの医療従事者とその関係団体の協働により、有効性、安全性に加えて、経済性なども含めて総合的な観点から最適であると判断された医薬品が収載されている地域における医薬品集及びその使用方針」とされている(厚労省「フォーミュラリの運用について」)。欧米で医薬品の適正使用、経済性向上を目的に取り組まれており、本方針で持ち出されているのも医療費抑制を企図したものと考えられる。
「病床削減」については、具体的な削減数は骨太方針に盛り込まれなかったものの、3党合意文書では病床削減の詳細な試算の記述があり、病床削減に固執していることが見て取れる。あらゆる手段を用いて病床削減を強行することが狙われている。
医療DXに関しては、マイナ保険証の利用促進、全国医療情報プラットフォームの構築、電子カルテ情報共有サービスの普及、電子処方箋の利用拡大、PHR(パーソナルヘルスレコード)情報の利活用等が掲げられている。しかし、オンライン資格確認やマイナ保険証をめぐる数々のトラブルや情報漏洩のリスクがある中で、「医療DXを通じた効率的で質の高い医療」を実現できるのか。一度立ち止まって考えるべきだ。
今通常国会で負担上限額引き上げが見送りとなった高額療養費制度については、「長期療養患者等の関係者の意見を丁寧に聴いた上で、2025年秋までに方針を検討する」とされており、引き上げが実施される可能性も否定できない。
全体としては医療費抑制路線に変更なし
本方針では、医療・介護等の現場の厳しい現状や税収等を含めた財政の状況を踏まえて、賃上げの実現に確実につながる対応を行うとし、具体的には「高齢化による増加分に相当する伸びにこうした経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する」と明記された。高齢化分とは別枠で、物価上昇・賃上げ対応分の加算が盛り込まれたことを一定評価する声も医療界からは聞こえてくる。しかし、これらは本当に実効性のあるものなのだろうか。
例えば、「2024年度診療報酬改定による処遇改善・経営状況等の実態を把握・検証し、2025年末までに結論が得られるよう検討する」としているが、2024年度改定で多くの医療機関が減収となっているのは協会・保団連をはじめ多くの医療団体の調査からすでに明らかであり、2025年末まで「把握・検証」に充てるのは悠長すぎるだろう。
本方針は、財務省の「春の建議」、自民・公明・維新の3党の社会保障改革協議を踏まえたものであり、基本的には社会保障抑制の方針に貫かれたものである。全体として従来の医療費抑制路線が継続されていることは明らかだ。
協会は、これらの医療費抑制策に抗議の声を上げ、国民が安心して医療にかかれるように、医療提供体制の拡充と医療費の総枠拡大を求めていく。
(『東京保険医新聞』2025年7月25日号掲載)