公開日 2025年11月06日
2025年10月11日
東京都保健医療局 局長 山田忠輝 殿
一般社団法人 東京都保険医協会
代表理事 須田昭夫
子宮頸がん予防ワクチン接種予診票「上腕」の記載を「三角筋」に正す要望書
要望の要旨
東京都が各自治体に作成させている「子宮頸がん予防(ヒトパピローマウイルス感染症)ワクチン接種予診票」の『接種部位(筋肉内接種)』における『上腕』の記載を『三角筋』に正してください(図1、図2)。
要望の理由
1.日本における特殊な状況
日本では特に子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)接種後の様々な症状が多く、これが注目された結果、メディア報道により混乱がおこり、2013年に厚生労働省が積極的な接種勧奨を中止しました。2022年4月から、積極的な接種勧奨が再開されていますが、2023年4月から9月の国内のHPVワクチン接種率は初回が39.9%、2回目が12.8%と低水準のままです(各国の接種率はオーストラリア、イギリス、カナダ、スペイン80%から90%、米国80%弱、韓国約70%)。
2.世界保健機関(WHO)によるISRR(Immunization Stress-Related Responses:予防接種ストレス関連反応)の公表
日本で多かった症状とワクチンとの因果関係については、様々調査研究が行われていますが、科学的には証明されていません。
一方、WHOは2019年12月(日本語訳2022年4月)にISRRという概念を提唱し、その詳細をまとめたマニュアルを公表しました(図3)。発表された背景には、HPVワクチン接種後に見られた多様な症状を含む、世界各地で報告されたワクチン接種後のストレス関連反応の事例があり、それらに適切に対応する必要性が高まっていたことがあります。ワクチン接種に伴う疼痛、恐怖や不安といった心理的な要因、そしてそれが引き起こす身体的な反応(急性ストレス反応、血管迷走神経反射、解離性神経症状反応など)について、予防、診断、そして対応するための具体的な指針を医療関係者に提供しています。
3.日本における誤った筋肉注射教育
もちろん、ISRRだけでワクチン接種後の有害事象を説明することはできません。しかし、日本では、筋肉注射の部位(注射針の刺入点)や手技(注射針の角度)に関して医療者への誤った教育により、世界各国よりも接種後の疼痛が多く発生しました。新型コロナワクチンが国内では一般的でない筋肉注射であったため、筋注の正しい接種部位や手技が改めて確認されるまで(図4)、医師や看護師による術後疼痛をきたしやすい手技が蔓延していたのです。
すなわち、本来であれば、アメリカ疾病予防管理センター( Centers for Disease Control and Prevention: CDC)をはじめとした各国の保健福祉局が、注射針の刺入点は「三角筋の中央に垂直に刺入する」としているのに対し、日本では「肩峰の三横指下」「前後の腋窩ひだの上縁を結ぶ線と、肩峰中央からの垂線の交点」等に「45度から90度程度で刺入する」とされ、三角筋そのものではなく、他の部位をメルクマールに、誤った部位と針の角度についての指導・教育がまかり通っていました。これにより、針の先端が三角筋を外れ、皮下や上腕三頭筋に注射されることにより疼痛が強くなる症例が多かったと推測されます。
4.三角筋は上腕ではない
ところで、肩から上腕の筋肉の名称は解剖学では「三角筋」「上腕三頭筋」「上腕二頭筋」「上腕筋」から構成されています。(「上腕三頭筋」という解剖学用語は存在しません。)三角筋の上腕三頭筋側には、知覚神経である外側上腕皮神経(腋窩神経の枝)や橈骨神経が通っているため(図5)、三角筋を外れて上腕三頭筋側に針が侵入して薬液を注射されると、疼痛が著明になり、WHO定義のISRRを合併しやすくなります。
5.「子宮頸がん予防(ヒトパピローマウイルス感染症)ワクチン接種予診票」の誤り
東京都が各自治体に作成させている「子宮頸がん予防(ヒトパピローマウイルス感染症)ワクチン接種予診票」の「接種部位(筋肉内接種)」欄には、『上腕』『その他( )』の二つが記載されています。これによれば、あたかも『上腕』が正しい接種部位と誤解する蓋然性が高くなります。特に、初診者や知識が曖昧である医療者が、「上腕三頭筋」に注射してしまうことになります。
従って、明らかに誤っている『上腕』による誤った注射接種を回避するため、『三角筋』と書き代えることを要望します。
以上
子宮頸がん予防ワクチン接種予診票「上腕」の記載を「三角筋」に正す要望書[PDF:1.26MB]


