公開日 2025年12月02日
10月16日に社会保障審議会の医療保険部会でOTC類似薬の保険適用除外についての議論が開始された。OTC類似薬の保険適用見直しについては自民、公明、維新の三党合意を受け、骨太の方針2025に「2025年末までの予算編成過程で十分な検討を行い、早期に実現可能なものについて2026年度から実行する」と明記されていた。
保険外しで数十倍にも跳ね上がる患者自己負担
日本維新の会は、保険給付から除外する具体的な薬剤名として28有効成分を示し、最大1兆円の医療費削減を目指すとしている。この中には皮膚保湿剤のヘパリン類似物質や制酸剤の酸化マグネシウム、アレルギー性疾患治療剤のフェキソフェナジンなど、日常診療で広く処方されている薬が含まれている。OTC類似薬が保険から外されれば、アレルギー性鼻炎薬では約31倍、去痰薬では約42倍など、患者の自己負担は何十倍にも跳ね上がる。
全国保険医団体連合会が難病患者家族及び新婦人の会と共同で行ったOTC類似薬の保険外しの影響アンケートの中間報告では、回答者の95%が保険外しに反対し、83・6%が「薬代が高くなる」ことを懸念している。「薬が必要量用意できずに症状が悪化する(61・0%)」、「医師に診てもらわずに自己判断で薬を買うようになる(60・4%)」、「飲み合わせによる副作用(44・9%)」、「病気の見逃し、早期発見の遅れ(42・6%)」を懸念する声も多数寄せられている。
健康被害の発生は明らか
自公維の三党合意によればOTC類似薬は、「類似のOTC医薬品が存在する医療用医薬品」と定義されている。しかし、医師が使用する「医療用医薬品」と患者が自ら選択する「OTC医薬品」とでは、有効成分が一致していても、用法・用量、投与経路・剤形等に違いがあり、効能・効果も同一ではないことが厚労省の医療保険部会でも指摘されている。
患者が自己判断で市販薬を選び服用した結果、重篤な副作用等の健康被害が起きる可能性がある。たとえば、保険除外の対象薬として上げられたロキソニンは、胃腸障害と腎機能障害が副作用としてあり、医師による定期的なチェックが必要な薬である。
全国規模で見れば、程度の軽重はあれ一定の頻度で健康被害が生じることは明らかだろう。OTC類似薬の保険外しは、いわば「国民の健康被害を織り込んだ上で行われる医療費抑制策」である。セルフメディケーションの名の下、「健康推進」を装ってこのような政策を進めるのは欺瞞と言わねばならない。
医療のあり方が破壊される
WHOの定義では、セルフメディケーションとは「自分自身の健康に責任を持ち、軽度の身体の不調は自分で手当てすること」とされる。しかし、この定義の前半と後半は直接には繋がらない。自分では軽度な不調と感じても、重大な疾患が隠れていたというケースは少なくない。専門的な知識・技術・設備を備えた医療機関にかかることは、むしろ健康に対して責任ある行動と言える。
本来医薬品とは、医師が診察を行い、治療方針を患者に説明し、共有することを前提として、治療の一環として使用されるものである。しかし、自己投薬の場合、目の前の症状に対する「鎮痛」目的での使用に偏りやすい。これは、近年若者を中心に社会問題となっている市販薬乱用(OD=オーバードーズ)において顕著である。ODの増加の一因として、市販薬活用等によるセルフメディケーションの推進政策が指摘されている(4面参照)。
セルフメディケーションの過剰な推進、健康の自己責任化は、医療費の負担増や直接的な健康被害を生むだけでなく、医療のあり方自体を壊すものであり、既にそれは始まりつつある。
国民のいのちと健康を守るために、OTC類似薬の保険適用除外の撤回を求めていく。
(『東京保険医新聞』2025年11月25日号掲載)


