[主張]2025年協会活動を振り返る ~はたして病院は存続できるか?~

公開日 2025年12月26日

副会長 水山  和之  

はじめに

 今年は昭和百年であり、団塊の世代の全員が2025年以降75歳以上の「後期高齢者」 となる節目の年であった。しかし、今年ほど病院経営危機が顕在化した年はない。2025年初頭から日本病院会と四病協の経営危機を皮切りに、東京保険医協会からも複数回にわたり要望書を発出し、その後も、ほぼすべての団体から病院経営危機の要望、メディア発表が相次いだ。石破政権は参院選挙で大敗し、「健康医療安全保障」を公約とする高市政権が誕生したが、日本維新の会との連立のため、病院経営支援、地域医療確保の観点から、アクセルとブレーキが混在している。患者、医療従事者、医業経営の3つの視点から総括したい。

1 患者の視点

 新型コロナ感染症が2023年5月から5類感染症へ移行したが、果たして国民は健康になったか? また、東京都や政府が呼びかけた「三密(密閉・密集・密接)」の回避行動は、様々な弊害も指摘されている。2024年から、インフルエンザなどの感染症の増加が顕著であり、免疫力の低下が懸念される。高齢者の認知症の発症数も死亡数も著しく増加した。フレイル対策は急務であるが、認知症や合併症進行例については、ACP(人生会議)にて在宅や施設での看取りが増えているのだろう。

 健康診断の受診抑制も問題になった。ここ数年のがん患者の増加との関連が指摘されている。同時に、がんの治療法も進歩し、がんサバイバーも増えているが、日本維新の会が高額療養費制度の自己負担上限引き上げを提言した。受診抑制や治療中断につながりかねず、がん患者の会や医療団体に衝撃が走った。見送りになって当然であるが、その後も自己負担への年間上限額を新設する案が示されており、予断を許さない。

 日本維新の会の提言は、若い世代の負担を減らすことであるが、高齢世代の犠牲もやむを得ずの姿勢である。日本老年医学会は、年齢による差別(エイジズム)に明確に反対する立場を表明している。

 傷病者、障害者、高齢者を大事にすることは、文明社会の条件であると思うが、財政のプライマリーバランスを第一優先とする政策は、医療・福祉が置き去りにされる可能性が高く、政治から目が離せない。

2 医療従事者の視点

 政府は、医師不足の原因は医師の偏在(地域偏在・診療科偏在)と指摘している。2004年度に始まった臨床研修制度導入以後、指導体制が充実している都市部の市中病院(大学病院以外)に研修医が集まる傾向が続いたが、2024年度から医師に対する時間外・休日労働の上限規制が適用されたことが、全国的な医師不足に拍車をかけた。2025年になって医師不足は顕著になったが、保険診療の将来性への不安もあり、「直美」が話題になった。やはり、医療費抑制政策に問題があるのではないか?

 今年は、看護師の不足も深刻化した。2024年に鳴り物入りで登場したベースアップ評価料は、事務作業の煩雑さで、事務職員の働き方改革に逆行している上、医療従事者に限定した制度のため病院職員の分断を生み、そのベースアップの水準は一般企業平均に到底及ばない。医療機関は「3K職場」と揶揄され、有料看護師紹介業者の手数料も高騰し、医業経営を圧迫した。。

3 医業経営の視点

 医業、特に病院経営はコロナ禍より前から、長期的な低診療報酬政策のため、構造的な赤字状態である。2024年度から大学病院などの拠点病院、救急病院などでは、赤字幅が急拡大した。

 その大きな理由は3つある。第1に新型コロナ感染症に対する過剰な隔離政策により病床稼働率を大きく引き下げてしまった状況の中で、補助金が一気に終了したが、患者はなかなか戻ってこない。2番目の理由は、医師の働き方改革の厳格な実施により、医師の給与費の急激な増加である。これまでの診療報酬体系は、医師のサービス残業が前提であったことが明白になった。看護師や看護補助者の不足も目に余り、医療スタッフの不足のため、病棟閉鎖も後を絶たない。3番目は、物価の高騰である。薬価は公定価格であるが、衛生材料、医療機器、修繕費・建設費は高騰している。基幹病院が雨漏りに対してバケツ対応したり、待合室の椅子さえ更新できないという報道は衝撃的であった。

 政府は、1床当たり約410万円で病床を削減する補助金を打ち出しているが、約7・7倍の申し込みが殺到した。病床数が減少すれば、増収する手段は限られることになる。医療DX推進による合理化は進めなければいけないが、人員基準の緩和などがないため、経営に寄与するかどうかはまだ不明と言わざるを得ない。

 また、昨今の物価高騰は急激であり、診療報酬の改定が追い付かない。高市政権に移行後、すぐに医療機関や介護施設への早期の財政支援を表明し、12月16日、「医療・介護等支援パッケージ」総額1兆3649億円を盛り込んだ2025年度補正予算案が成立した。これらは、各種医療団体、東京保険医協会などの要望の成果でもある。

 われわれは、2026年度診療報酬改定では、「10%以上のプラス改定」を要請している。しかし、中医協では高度急性期病院・救急病院への重点化が議論されており、地域医療を支える中小病院や診療所は厳しい対応を迫られている。今こそ、患者負担も増えず、政府予算にも縛られない医療機関の損税の解消(ゼロ税率導入、消費税減税または廃止など)も検討すべきではないか。

医療法改正と長期的展望

 「医療法等の一部を改正する法律」が12月5日に、参議院本会議で可決・成立した。今回の改正は、今後の医療の方向性を大きく変えるものである。

 1番目に、医療機関が、厚労省の補助金を得て病床を削減した場合、医療計画において定める基準病床数も自動的に削減されることになった。これは、地域医療を再編する際の大きな足かせとなりかねない。病床数の削減が先行した場合は、病院は小型化するので、よほど効率化しないと経営は行き詰まり、地域から病院が消えてゆきかねない。

 2番目に、電子カルテの普及率100%、クラウド型の技術の活用を含めた電子化の普及が政府に規定された。ヨーロッパの個人情報ガイドライン(GDPR)を満たさないマイナ保険証資格確認制度の問題を解決しないまま、さらに企業の利活用に向けて推進することになった。診療所に対しては、オンライン診療規制の緩和、都心部など外来医師過多区域の無床診療所への対応強化、かかりつけ医機能に関する包括払制度の検討など、目が離せない。

 以上のように、医療界に激震が走っているが、医療機関の自助努力も必要である。来年に向けて3つの目標を掲げたい。
①高齢者に対して年齢の差別をせず、医療連携を推進しつつ、安心安全な医療を提供しよう。
②医療従事者が自信をもって働けるよう職場環境を整備しよう。
③看護・介護や事務作業の負担を軽減する真の医療DX、AIやICT機器を導入して、経営安定化を実現しよう。

 今後もわれわれの目標が実現できるよう、東京都と国に強く要望していきたい。

(『東京保険医新聞』2025年12月25日号掲載)