[主張]診療報酬制度の「目的外使用」に抗議する

公開日 2026年04月22日

 2026年度診療報酬改定は、基本診療料に関しては、初診料が据え置き、再診料は1点のみ引き上げという極めて不十分なものであった。一方で、ベースアップ評価料の大幅な引き上げが行われ、賃上げの対象も拡充された。経営に苦しむ多くの医療機関が、同評価料の算定を余儀なくされる形になっている。

 本稿では、診療報酬制度自体の在り方という観点から、2026年度改定の問題点を考えたい。

診療報酬の定義と「体制」の評価

 診療報酬については、健康保険法第76条第1項に「保険者は、療養の給付に関する費用を保険医療機関又は保険薬局に支払う」、第2項に「前項の療養の給付に要する費用の額は、厚生労働大臣が定めるところにより、算定するものとする」と書かれている。

 しかし、「療養の給付に関する費用」と規定されながら、実際には診療行為そのものではなく、医療機関の「体制」を評価する点数が度々設けられ、それらの多くは、国の政策的思惑を反映したものであった。

 たとえば、2024年度診療報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」では、当時低迷していたマイナ保険証の利用率によって点数に差が設けられ、さらに一定期間ごとに求められる利用率の基準が引き上げられた。

 2026年度の改定では、「医療DX推進体制整備加算」と「医療情報取得加算」を統合する形で「電子的診療情報連携体制整備加算」が新設され、電子処方箋または電子カルテ情報共有サービスの対応等に応じて点数に差が設けられた。マイナ保険証普及から情報共有・活用の体制評価へ組み替えられた形だ。

 医療機関の「体制」を診療報酬の枠内で評価するのは、そうした体制を備えていることが、医療にとって有用であり、「療養の給付に関する事項」とみなせる、という論理に基づく。しかし、それはあくまで国の価値観に基づいており、実際に医療の質の向上に繋がっているのかは、個別に検証されなければならない。

 たとえば、マイナ保険証での資格確認では、当初から現在に至るまでトラブルやエラーが多発し、医療機関窓口の負担は増大している。また、トラブル時の代替方法が弥縫的に乱発された結果、資格確認の仕組みは煩雑化し、ついには期限切れの保険証を認めるに至るなど、資格確認の精度はむしろ以前より落ちていると言える。

賃上げは「療養の給付」ではない

 一方、2024年度改定で設定された「ベースアップ評価料」が評価するのは「職員の賃上げ」であり、療養の給付そのものと何の関係もない。さらに同評価料による収入の使途は全て職員の賃上げに限定されており、医業経営の裁量にまで踏み込んでいる。診療報酬の趣旨から外れた異様な点数である。

 たとえば、飲食店で食事をした場合に「料理本体の料金は据え置きだが、スタッフの賃上げ代を別に請求される」等ということはありえない。客が支払うのはサービス(料理)への対価であり、スタッフの賃上げの費用ではない。賃上げや物価高騰に対応するのであれば、料理本体の価格を引き上げるのが当然であり、実際この数年間でほとんどの飲食店で価格改定が行われている。

 診療報酬は公定価格なので、他業種のように自由に価格改定を行うことができない。物価高騰や人件費への対応を含めて基本診療料で賄われるべきであり、今回の改定では基本診療料を中心とした大幅な引き上げが行われなければならなかった。

 2026年度改定では、改定前からベースアップ評価料を届け出ていたかどうかで評価に差がつけられることとなり、医療機関によって賃上げに格差が発生することになる。同評価料がいつまで維持されるのかも不透明であり、次回以降の改定で「役割を終えた」として減点・廃止される可能性もある。

診療報酬制度の乗っ取りを許さない

 今次改定は、単に評価が不十分であるということだけではなく、「療養の給付に関する費用」という定義を完全に逸脱し、医療機関を国の思惑どおりに誘導するための道具として運用しているという点で非常に大きな問題を抱えている。いわば診療報酬制度の乗っ取りであり、「目的外使用」である。

 基本診療料の評価が不当に低いことも、これらの国の思惑に則った点数に医療機関を追い込むための、負のインセンティブとして作用している。この手法がまかり通れば、保険診療のシステムは形骸化し、保険医療機関の経営の裁量は完全に奪われることになる。

 協会は、基本診療料の大幅引き上げと共に、「療養の給付に関する費用」という定義に立ち返り、医療行為を公正に評価する制度に戻すよう強く求めていく。

(『東京保険医新聞』2026年4月15日号掲載)