公開日 2026年05月14日
自民党と日本維新の会は2025年12月、処方薬のうち市販薬と成分や効能が似ているOTC類似薬について、薬剤費の25%を新たに患者自己負担として徴収することを合意した。この新たな患者負担は、2026年3月13日に閣議決定された「健康保険法等の一部を改正する法律案」の中で「一部保険外療養」として位置付けられ、4月28日に衆議院本会議で可決、参議院に送付された。
以下「一部保険外療養」の問題点について考えたい。
健保法63条2項に「一部保険外療養」が追加
健康保険法では、第63条の第1項で「被保険者の疾病又は負傷に関しては、次に掲げる療養の給付を行う」として、診察、薬剤又は治療材料の支給、処置・手術、在宅療養、入院等が規定されており、続く第2項で「療養の給付」から除外されるものが個別に列挙されるという形式をとっている。
現在、第2項に挙げられているのは「食事療養」「生活療養」「評価療養」「患者申出療養」「選定療養」の5つ。今回の改定案では「六」として「一部保険外療養」が設けられることになる。具体的な文面は以下のとおりである。
「要指導医薬品(中略)又は一般用医薬品(中略)との代替性が特に高い薬剤を用いた療養その他の適正な医療の提供を確保しつつ、公平かつ効率的な保険給付を行う必要性に鑑みその要する費用のうち一部を保険給付の対象としないものとする療養として厚生労働大臣が定めるもの(以下「一部保険外療養」という。)」
「一部保険外」が際限なく広がる
この新たに追加された一文の最大の問題点は、「その他の適正な医療」の文言が入ることで、薬剤以外も一部保険外療養とすることができるとしている点である。「療養の給付」の例外を個別に掲げている第2項の構造そのものを無効化する文面と言える。OTC類似薬だけではなく、厚労大臣が定めさえすれば、際限なく保険診療の範囲が縮小されていく恐れがある。
この点については国会質問で取り上げられたが、「63条第1項の、療養の給付で掲げている範囲も給付を制限できるのではないか」との問いに対し、上野厚労大臣、間保険局長は「現時点ではOTC類似薬以外は考えていない」と述べるのみで、将来的な可能性については言及していない。口頭の答弁には法的拘束力はなく、法文上可能である限り、時の厚労大臣によっていかようにも運用されうる。
「一部保険外療養」の追加は、公的医療保険制度を根幹から揺るがす制度改変だ。「将来にわたって7割の保険給付(自己負担は3割以内)を維持する」とした2002年改正健保法附則第2条の趣旨に反していると言わねばならない。
国民の健康を破壊するOTC類似薬への負担導入
制度の持続可能性や、現役世代の保険料負担の軽減などが「一部保険外療養」導入の理由として挙げられているが、厚労省の試算においても、OTC類似薬の追加負担導入によって実際に削減される保険料は月33円に過ぎず、実効性に乏しい。一方で、対象となる77成分、約1100品目には、ムコダイン、ヒルドイド、アレグラなど日常診療で使用される薬剤が数多く含まれている。当然現役世代にも薬剤の負担増がのしかかることになる。3割負担の患者の場合、結果として薬剤費全体の5割分、現行の約1・7倍の金額を負担することになる。子ども、がん患者、難病患者などへの配慮措置が設けられるとしているが、あくまで限定された範囲に留まっている。
また、一部負担の導入は今回で最後ではなく、2027年度以降に一部負担を求める対象薬剤の範囲を拡大することや、負担割合の引き上げの検討が行われることになっている。
患者負担の増加は、日常的に誰もがかかる病気で医療機関を受診すること自体へのペナルティとして働き、国民の受診抑制と自己判断での市販薬の利用を促進することになる。
長期間にわたる使用や他の薬剤との併用等による副作用を、専門の知識を持たない患者が自力で回避するのは極めて困難である。症状は軽くても、実際には重大な疾患が隠れている場合も珍しくはない。
また、中高生を中心に社会問題化している、市販薬乱用(オーバードーズ)の背景には、セルフメディケーション政策の推進により、医薬品の購入のハードルが下がったことが指摘されている。
医薬品は、医師の診察と診断に基づいて、患者の同意の上で、治療の一環として使用されるべきものであるが、自己判断による服薬は、目の前の症状や苦痛の緩和に偏り、誤った服用を助長しやすい。前述の「オーバードーズ」はその顕著な例と言えるだろう。受診抑制と自己判断での服薬は、長期的には確実に国民の健康を蝕むことになる。
今回の健保法の改定は、単に「患者の薬剤にかかる負担が増える」というだけではなく、国民皆保険制度そのものの枠組みを崩壊させる大改悪である。
「一部保険外療養」の導入を食い止めるために、医療者と患者の力を合わせて声を上げていこう。
(『東京保険医新聞』2026年5月5・15日号掲載)


