[主張]財政審「春の建議」を読む

公開日 2026年07月09日

 財務省の財政制度等審議会は6月26日、「骨太の方針2026」を視野に入れた「春の建議」をまとめ、片山さつき財務相に提出した。 

 「患者アクセスの保障」と「医療提供のための負担の抑制」のバランスを図るとして、「大きなリスクは共助中心、小さなリスクは自助中心」の視点から保険給付範囲のあり方の見直し、保険給付の効率的な提供に不断に取り組むとされた。

70歳以上の患者負担割合 原則3割化

 建議では、年齢による自己負担割合の不公平を是正し、現役世代の保険料負担を軽減するために70歳以上の患者負担を原則3割とすべきだとし、高齢者のみに適用される外来特例を廃止することを求めている。

 しかし、高齢者の医療ニーズは現役世代よりも高く、また、その多くが年金生活者であり物価上昇等の影響を直接的に受ける。窓口負担の増加は、受診抑制と疾病の重症化につながる危険性がある。

窓口業務費用の保険給付外サービス化

 建議では、2026年度診療報酬改定で、オンライン診療の受診に係るシステム利用料を療養の給付と直接関係のないサービスとして患者から費用徴収できることになったことを受けて、通常診療時の窓口業務費用についても保険給付外サービスとして請求できるようにすることを検討すべきだとした。

 しかし、これらを保険給付の対象外とすれば、国民皆保険制度の「必要な医療は一連の公的保険で受けられる」という前提が崩される。医療機関ごとに独自の料金設定が行われ、経済格差が医療に持ち込まれることになる。医療に付随する必須のプロセスを保険外とすることで、公的保険の給付範囲が際限なく縮小されていく危険性がある。

効率的な医療提供体制構築

 医療・介護分野の労働生産性を向上させるため、分散した医療機関を再編し、病床適正化、入院機能の強化、外来機能の統合を図る。また、地域の診療所等のかかりつけ医機能の強化により、頻回受診を前提としなくても、必要な時に必要な医療にアクセスできる体制を確保していくことが重要であるとされた。その他、アウトカム重視、「出来高払い」から「包括払い」への転換、リフィル処方・長期処方の推進が挙げられた。

 しかし、医療機関の集約化によって、医療へのアクセスは著しく低下する。また、外来受診は患者の症状や服薬状況等を継続的に確認する機会であり、受診回数の削減ありきで議論するのは本末転倒だ。経営効率のみを基準に再編を進めるべきではない。

医療DX・AXの普及

 建議では、医療機関等の関係者が主体的かつ速やかにDX・AX(AITransformation)の整備を進めることが必要であるとされ、システム導入等の体制整備を支援するという従来の発想ではなく、DX・AXで実際に効果を生んでいる医療機関を重点的に支える財政支援の在り方や報酬上の仕組みの検討が掲げられた。また、レセプトデータ、電子カルテ情報の二次利用等を進めることで、データに基づいた政策立案や、医療提供体制の効率化に寄与できるとしている。

 しかし、医療DX・AXの成果を財政支援と結びつけることで医療機関ごとの格差を助長する。個人情報保護の弱体化、情報漏洩のリスクなど、医療情報の二次利用推進の前に取り組むべき課題は山積している。

医学部定員数の削減

 建議では、現在の定員水準を維持した場合、医師数が過剰となることは既に確定的であり、医師偏在是正の取り組みと医学部定員削減を提案している。

 しかし、そもそも日本は医師不足である。OECD加盟国の平均値である人口1000人当たりの医師数3・9人と比較しても、日本は同2・6人と低水準にあり、医学部定員数の削減はその事実と逆行する。

 「医師の働き方改革」の観点からも問題がある。医師には年960時間、地域医療の維持や研修目的の場合は年1860時間もの残業が容認されている。医学部定員を削減することは、医師の過労死寸前の過酷な労働を前提とする非人道的な政策だ。

「コスト削減」の観点のみからの建議内容

 建議は、保険給付の「効率的な提供」を重視するあまり、国民のセーフティネットである医療制度の持続可能性を、単なる「コスト削減」の観点からしか捉えていない。国民が安心して医療を受けられることを理念とする国民皆保険制度を瓦解させるものだ。

 必要なのは、国民が安心して医療を受けられる体制をいかに維持するかという議論であり、財政の数字合わせのために給付を削り負担を増やすという現在の方向性は、抜本的に修正されるべきである。

(『東京保険医新聞』2026年7月5日号掲載)