保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

[主張]医療現場に混乱をもたらすベースアップ評価料

公開日 2026年09月28日

届出・中間報告で医療現場に大きな混乱

 8月の施設基準の定例報告で、ベースアップ評価料に関しては、2025年度の「賃金改善実績報告書」と2026年6・7月分の「賃金改善中間報告書」の提出が求められた。報告書には賃金改善額や常勤換算した職員数など多くの確認事項があり、協会には賞与の取扱いや職員の異動、途中採用・退職者への対応などの問い合わせが相次いだ。

 複雑な報告を多忙な日常診療の合間に行うことは非常に困難である。正確な報告のため確認しようにも、厚生局への電話がつながりにくい状態が続いた。

 9月1日に厚労省は「やむを得ず提出期限を超過している場合においては、当該報告書を可及的速やかに地方厚生(支)局長宛てに提出すること」という事務連絡を発出しているが、これは提出期限を超過した医療機関が多数発生したことを意味している。

 報告書の作成方法についてだけではなく、「届け出た点数と異なる点数を算定してしまった」等の相談も多く寄せられた。ベースアップ評価料は元々の仕組みが複雑な上に、2026年6月改定で、継続的に賃上げを実施している医療機関に別の点数が設けられ、誤りを誘発しやすい構成となっていた。さらに、メールでの届出を行ったにもかかわらず、地方厚生局の「施設基準等の届出受理状況」のページに反映されず、届出状況が正しく確認できないケースが相当数あったことも、混乱の原因となった。

 厚労省は8月19日、事務連絡「ベースアップ評価料等に係る診療報酬請求について」を発出し、特にベースアップ評価料について疑義が生じていることを認め、「特段の対応と調整を図った」としているが、「特段の対応」の具体的な内容は示されていない。

 届出受理名簿に正しく反映されなかったことを踏まえれば、医療機関に負担がかかる「返戻」ではなく、本来請求すべき点数との差額のみの増減点で対応すべきである。

診療報酬の趣旨を逸脱した点数が生む歪み

 ベースアップ評価料は、2024年度改定で新設されたが、同評価料の届出割合は当初、東京都の診療所において約25%だった。厚労省は届出の簡素化、対象となる職員の範囲の拡大のほか、補助金の支給対象をベースアップ評価料届出医療機関に限定する等、様々な方法を取ってきた。さらに2026年度改定では、初診料据え置き、再診料1点のみの引き上げとする一方で、ベースアップ評価料の点数をほぼ倍増させるなど、強力な誘導策がとられた。2026年6月時点での東京都の診療所の届け出割合は約57%に達している。

 職員の賃上げは、健康保険法第76条第1項に規定される「療養の給付」と関係がなく、ベースアップ評価料は診療報酬の趣旨を逸脱している。さらに同評価料による収入は全て職員の賃上げのみに充てなければならず、医療機関の裁量は否定されている。

 「補助金」と同じように収入の使途を賃上げのみに限定しながら、医療機関ごとで収入に差が発生する「診療報酬」の枠組みを利用しているために、結果として医療機関ごとに、賃上げの原資に大きな格差が生まれることになる。

 また、患者の立場からしても、同じ医療行為を受けても医療機関によって負担する額に差が発生し、不公平である。

 国は多くの医療団体が共通認識として要求してきた「基本診療料の大幅な引き上げ」に背を向け、簡単に「はしご外し」ができる評価料に逃げた。その結果、医療機関は「価格は据え置きだが、賃上げ対応の費用を単独で患者に求める」という不自然な対応を強要され、現場に様々なひずみを生じさせている。

 協会は、医療機関がそれぞれの裁量で職員への賃上げも含めて対応できるように基本診療料を大幅に引き上げること、さらに機動的な措置が必要な場合については簡素な手続きによる補助金で対応することを、強く求めていく。

(『東京保険医新聞』2026年9月25日号掲載)