保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

【主張】危険を隠したTPP 国民的議論を

公開日 2015年11月05日

 米国アトランタでTPP交渉を行っていた12カ国は10月4日、交渉の大筋合意を確認したと報道された。しかし12カ国の閣僚がそろってテーブルに着いたのは合計でもわずか3時間だけで、ほとんどは2国間協議の積み重ねであった。

 TPPは多国籍大企業の要求を容れて、各国の経済主権を侵害する恐れが強い。バイオ医薬品のデータ保護期間を12年にして、多国籍製薬企業の利益をはかろうとする米国と、5年に短縮して後発医薬品の普及を期待するオーストラリアや途上国が、妥協案の8年で合意した。

 5年を強く主張してきたマレーシア、チリ、ペルーも合意したようだが、本国の議会が納得するかどうかは不明である。ニュージーランドが日本、米国、カナ ダに求めていた乳製品の大幅な市場開放も合意に至ったが、自動車の関税は日本がゼロになっても、米国は25年間にわたって関税を維持するというような、不 公平さがある。

 米国が望む新しい経済圏に入ることは、日本の安全保障に寄与すると考えた安倍政権が、妥結に向けて譲歩を重ねた結果、国会決議された農産物重要5品目の扱いについて、農業団体には大きな不満が残された。

 2013年に自民党が賛成した国会決議では、「交渉の情報は国会に速やかに報告し、国民への十分な情報提供を行い、幅広い国民的議論を行う」と明記されたが、交渉が秘密裏に行われたという印象はぬぐえない。

 大筋合意は交渉の決着ではなく、協定文書がこれから作成されて調印となり、さらに各国の批准、国会承認の手続きが必要であるが、交渉の運営が強引であったために、約半数の国では国会承認の困難が予想されている。

 各国の承認が得にくい理由には、まず大筋合意の内容に問題があるが、その全貌が明らかでないこと、交渉経過が5年間も秘匿されること、重要なルールの実 態が開示されていないこと、などが関係している。医薬品のデータ保護期間や「投資家対国家紛争解決条項」(ISDS条項)は、恥ずべき取り引きと批判され ている。後発医薬品の製造の遅れは、弱い立場の人たちの生命を、危険にさらす恐れがある。

 ISDS条項は他国へ進出した多国籍大企業が相手国の制度や政策によって、利益が損なわれると考えたとき、進出先の政府を訴える権利を与える。紛争は国 際投資紛争解決センター(ICSID)が処理するが、損失の有無だけで裁定が下される。審理は1回限りで非公開、世界銀行(米国)総裁が議長になるので、 裁定は米国寄りの可能性が強い、などの問題点がある。

 TPPでは、多国籍企業の利益と諸国民の利益が対立する。米国籍の国際的大企業が米国市民さえも犠牲にしかねない。TPPが批准されれば、著作権保護期 間は50年から70年になる。過去の書籍の利用を制限することが、将来の世界の文化にどれほど貢献するのだろうか。TPPは明らかにされていない、さまざ まな危険を持っているといえる。

 政府・与党は臨時国会を開会しない方針だと報道されている。9人もの閣僚を交代させた第3次安倍改造内閣は、TPP交渉について、言論の府である国会で 所信表明を行い、「交渉の情報は国会に速やかに報告し、国民への十分な情報提供を行い、幅広い国民的議論を行う」という約束を実行するべきだ。2013年 の国会決議を忘れてはならない。

(『東京保険医新聞』2015年11月5日号掲載)

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