保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

【主張】今の政治は経過を大切にしていない

公開日 2015年09月15日

 東京都「こころの健康だより」2015年2月号に、統合失調症患者の手記がある。

 彼女は15歳で発症。中学の卒業式の時に妄想と行動化がひどくなり入院。退院後再燃して飛び降り集中治療室。バラの花束やラブレターにはげまされて通信制高校卒業。その後、会社、授産施設、福祉施設などに勤めるが、その間に、休薬や仕事での無理、親のことでの心理的負担、などがきっかけとなり急性再燃状態となり計10回の入院をした。

 現在は、年金、生活保護、ピアスタッフ(※1)の給料などで暮らし、楽しみも出来てきている。若年発症の統合失調症は生活経験という支えが少ないが、彼女は様々な人との出会いによって再燃を乗りこなしてきている。

 慢性疾患である統合失調症の寛解とは「まあいいか」と言える状態である。完全に治ったかどうかという結果よりも、その間の出会い、気づきなどの経過が大切だ。

 病気になって良かったですか?と尋ねられた彼女は「病気になっても、悪くはなかったかな」と答える。「病気になったことにより多くの方々に迷惑をかけてきて、追いかけたかった夢も諦めて。でも病気にならなかったら出会えなかったたくさんの仲間・優しさに触れ、生きてきてよかったと心から今思えている」と。

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 今の為政者は結論ばかり重視している。

 TPPは大局を考えている人たちによって交渉が続いている。グローバル経済のもとで食糧自給率はどうなる、遺伝子組み換え種子と遺伝子組み換え種子用除草剤がまき散らされるのか、医療がどこでも受けられる国民皆保険ではなくてアメリカみたいな医療保険がやってくるのか、心配は続いている。

 原発について経済の大局を考えているという人は、放射線の影響を心配している人を揶揄して、原発の再稼働を進める。今もって大熊町(福島第一原発の所在地)に帰れない人たちの気持ちなんてどうでもいいようだ。

 沖縄についても大局を考えているという人たちは中国の脅威が、北朝鮮の脅威が、などといって、無理やり新しい米軍基地を作ろうとしている。沖縄の人の気持ちなんて小事だというように。

 武器についても防衛装備移転という名目で輸出を実現しようとしている。日本製の武器で起きることを心配するのは小事であるとして。

 言論統制に関しても大局を考えている人たちは、中国や北朝鮮に対して戦うためにも特定秘密保護法は重要だという。でも、言論統制が進めば、日本が北朝鮮みたいな国になる。

 そして安保法制である。安倍首相は火事だの追い剥ぎだの邦人乗船だのと譬えていたが、つまり米国と一緒に戦おうという法案としか思えない。結論を急ぐ人にとって反対する人々は邪魔者にしか見えない。

 そして上記の結論のすべてが書かれている第3次アーミテージ・ナイレポート(※2)というのがあるらしい。米国の意向に沿うという結論が優先され、一つひとつの心配が無視されている。

 経過が大切であるなどと為政者は考えずに「粛々と進める」などと言っている。

 8月30日、12万人が国会を包囲した。全国で多くの市民が立ち上がり、大きなうねりが生まれつつある。わたしたち保険医もひとりの市民として声をあげ続けたい。


※1 ピアスタッフ
精神疾患を持ちながら、自らの病を開示してユーザー登録をし、一定の報酬を得て支援者として働く労働者等。諸外国に事例あり。日本にはまだ明確な基準が定かではなく、ピアサポーターとも呼ばれている(東京都「こころの健康だより」2015年2月号から引用)。

※2 第3次アーミテージ・ナイレポート
2012年8月15日、米国のアーミテージ元国務副長官及びジョセフ・ナイ元国務次官補(現ハーバード大学教授)を中心とした超党派の外交・安全保障研究グループが、日米同盟に関する報告書 を公表した。2000年10月、2007年2月に公表されたものに続く3番目のものであり、アジア太平洋地域に顕在する様々な問題を踏まえ、今後の米国、日本、そして日米同盟の在り方について、グループの分析評価結果を具体的な政策提言の形で明示したものである(海上自衛隊幹部学校ホームページから引用)。
集団的自衛権については、「集団的自衛の禁止は同盟の障害である」(Prohibition of collective self-defense is an impediment to the alliance)と述べている。

(『東京保険医新聞』2015年9月15日号掲載)

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