保険医の生活と権利を守る東京保険医協会

【主張】社会保障と軍事費を考える

公開日 2015年07月15日

 「医療費の自然増と技術革新で増える歳出分を、他のどこかを削って合わせるようなことを、いつまでやっているのか」「財審(財政制度等審議会)で議論したのは、防衛費をずっとカットし続けることができるのか。申し上げたいのはこういうことなのです」

 2013年2月に開かれた第5回社会保障制度改革国民会議で、社会保障費をもっとしっかり削って、軍事費にまわせという発言が出た。財政制度等審議会は国の「本音」や「要求」がよくわかる会議といわれている。

 小泉政権時代から減少を続けていた軍事費が、安倍政権になってから3年続けて膨張している。安倍政権が2013年に決定した「中期防衛力整備計画」は、14年度からの5年間に25兆円を投入して、自衛隊を強化するというものだ。しかも「専守防衛型」ではなく、米軍との集団的自衛権の行使を前提とする「派兵攻撃型」だ。2015年度の軍事費は当初予算ベースでも5兆130億円となり、過去最高だった2002年度の4兆9,560億円を上回った。

 安倍政権が国会会期を9月まで延長して、強引に成立させようとしている「戦争法案」は、“米国の要請にこたえて海外での戦争を可能にする法案”である。オスプレイや戦闘機F-35A、イージス艦、潜水艦、水陸両用車など、強化される主要装備が「外に出て敵をうつ」ものであるのを見れば、戦争法案を先取りした予算であることは一目瞭然だ(下表参照)。

表 2015年度当初予算に計上された自衛隊の主要装備
「わが国の防衛と予算 平成27年度予算の概要」(防衛省)から抜粋 ※金額は契約ベース
◆迅速な展開・対処能力の向上
 垂直離着陸機オスプレイV-22(5機:516億円)、水陸両用車AAV7(30両:203億円)、水陸両用作戦関連部隊等の整備(179億円)、南西警備部隊の配置(32億円)、民間海上輸送力の活用に係るPFI事業(250億円)
◆周辺海空域における安全確保
 固定翼哨戒機P-1(20機:3,504億円)、イージス・システム搭載護衛艦(1隻の船体建造、2隻分システム一部:1,680億円)、潜水艦建造(1隻:643億円)、新早期警戒機E-2D(1機:232億円)、早期警戒管制機E-767の能力向上(156億円)、無人機グローバルホーク:システム一部(154億円)、哨戒ヘリコプターSH-60K(2機:138億円)、新哨戒ヘリコプター開発(70億円)
◆航空優勢の獲得・維持
 戦闘機F-35A(6機:1,032億円、国内企業参画初度費別途177億円、その他関連経費(教育用器材等)別途181億円)、戦闘機F-15近代化改修(8機:101億円)、基地防空用地対空誘導弾(1式:56億円)、11式短距離地対空誘導弾(1式:29億円)、03式中距離地対空誘導弾(一式:164億円)、対空戦闘指揮統制システム(1式:28億円)、救難ヘリコプターUH-60J(1機:49億円)
◆弾道ミサイル攻撃への対応
 イージス・システム搭載護衛艦の能力向上(2隻:168億円)、BMD能力向上型迎撃ミサイル(SM-3Block II A)の日米共同開発(94億円)、PAC-3部隊の市ヶ谷での展開基盤等の整備(30億円)
◆その他の主要装備等
 10式戦車(10両:102億円)、将来戦闘機関連の研究開発費(342億円)

 さらに、安倍政権の暴走には歯止めがかからない。米軍関連予算は当初予算ベースで過去最高である。「思いやり予算」と呼ばれる在日米軍駐留経費負担1,912億円、辺野古新基地建設関連予算1,736億円、米軍岩国基地(山ロ県)強化予算1,019億円などの米軍再編関係経費を含めた予算の合計は3,406億円となった。辺野古基地建設費用は前年度の80倍だ。

 一方、社会保障費の削減がすさまじい。政府予算の概算要求で、8,400億円(2013年)、9,900億円(2014年度)とされていた社会保障費の自然増分が、いずれも5,000億円台に押さえ込まれているのだ。特に2015年度は、8,300億円の自然増を、4,200億円に圧縮する大改悪が行われた。その最大の削減が今年4月に実施された介護報酬の引き下げである。介護職員処遇改善手当てを除くとマイナス4・48%の改定となり、多数の介護施設の経営難や、廃止を招いている。小池晃議員が参議院予算委員会に提出した試算では1,130億円の削減となっている。

 同試算によると、年金「特別水準の解消」(物価が下がっても連動しない特例の廃止)で500億円、今年4月からの70・71歳の医療費窓口負担2割化で465億円、「マクロ経済スライド」の発動による年金削減で800億円、生活保護の扶助基準の引き下げで260億円。8月実施予定の介護保険利用料の2割負担導入と介護施設の食費・部屋代の負担増(資産要件の導入)で223億円、さらに今年度予算による協会けんぽの国庫補助引き下げで460億円、生活保護費では住宅扶助・冬季加算の引き下げによる70億円である。合計すると約3,900億円もの自然増分が削減されているのだ。

 しかし、防衛費のうち哨戒機P-1の20機、オスプレイ5機の購入を止めるだけで、介護報酬の引き下げ、高齢者の窓口負担増、介護の利用負担増などをせず、さらに年金や生活保護費をこれまでどおり支給できるのだ。

 5年間で25兆円も軍事費につぎ込む財源があるのなら、人間の命を救い、健康を守り、生活を支える社会保障を充実させるべきだ。この当たり前のことが通らない国では困る。

 周知のように社会保障分野は、経済への波及効果が公共土木事業よりも効果的で、他の産業に比べて「雇用誘発効果」が高い。社会保障の充実は、子育て、教育、医療、介護などへの家計出費を減らし、冷えきった国民の購買意欲を拡大させる効果もある。社会保障を充実・拡大してこそ、国民の生活が安定し、日本の経済は好転する。

 6月上旬のNHK世論調査でも、安保法案の今国会での成立について「賛成」18%にたいし、「反対」が37%となった。国会論戦などを通じて悪法の危険性が明らかとなり、安保法案反対の声が多数になりつつある。社会保障切り捨てと表裏一体となった軍拡・海外出兵へ盲進する危険な路線から決別し、暮らしと経済を支える雇用と税制、社会保障充実を基本にした国をめざしてほしい。

(『東京保険医新聞』2015年7月15日号掲載)

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