【主張】医療情報との紐付けを準備 危ない!!マイナンバー制度

公開日 2015年07月05日

 国民共通番号(マイナンバー)は社会保障、税、災害対策を目的にして、2013年の国会で強行採決された。支払調書や銀行口座と共通番号を紐付ければ、給与所得を正確に把握できる。所得課税の最低限度額と相続税の控除額は引き下げられているので、庶民課税の強化になる。

 その一方では、社会保障給付を抑制することが共通番号の目的である。国民への説明は、公平・公正な社会、行政の効率化、国民の利便性などとされ、施行後3年を目処に、利用範囲の拡大を検討する付則がつけられていた。

 しかし2年後の、制度がまだ施行にも至らない本年5月21日、衆院本会議でマイナンバー法と個人情報保護法の両改定案が可決された。改定案では番号活用が保険者間の健診データの連携、予防接種の履歴管理などにも拡大される。個人情報保護法では、本人の同意なしに個人情報の目的外使用ができ、個人情報も「匿名化」すれば、第三者に情報提供できることになる。

 健康情報との紐付けは、個人情報保護などの仕組みと併せて検討することになっていたが、忘れられている。一方で、多様なサービス主体がかかわる「地域包括ケアシステム」においても、公的保険を使う医療と介護の情報を、民間保険やヘルスケア産業などの企業が利用する仕組みづくりが進んでいる。

 すでに共通番号を導入している韓国とアメリカでは、個人情報流出や、なりすまし犯罪による被害が深刻で、制度自体を見直す動きがある。とくに国外赴任中の軍人の被害が深刻な米国国防総省は、軍人の個人番号を国民番号から切り離して運用することにした。米国はすでに国民共通番号ではなくなっているのだ。

 欧州諸国でも国民番号を使用しているが、医療情報の利活用には本人の承諾が原則で、業務を監視する組織を必ず設けている。

 マイナンバーと個人名があれば、各機関を巡回して個人情報を引き出せるが、内閣官房は「本人確認を行う」というだけで、対策をしていない。またしても「安全神話」だ。いくら根性を入れて仕事をしても、漏えいは止められないだろう。そもそも生涯不変の番号で、あらゆるデータを一元管理することは、ITの常識を欠いている。リスクが無限大で、膨大な経費が掛かる制度は、見直しが必要だ。

 5月29日の産業競争力会議に提出された厚生労働省の資料によれば、1)個人番号カードに健康保険証機能を付与(2017年7月以降できるだけ早期に導入を目指す)し、2)医療連携や研究に利用可能な番号を導入する(2018年度から段階的運用開始、2020年の本格運用を目指す)としている。

 1)については、医療機関窓口でのオンライン資格確認が前提となり、医療機関にはシステム導入の設備投資が求められるだろう。紙レセプトで請求している協会会員からはすでに心配の声があがっている。2)については、医療情報を共通番号から分離したように見えるが、1枚のカードに格納することに変わりはない。個人の特性と医療情報が紐付けされた人は、例えば就職、結婚、ローン契約、保険契約、融資等で不利になることがあり、健康・介護関連商品、保険商品のマーケティングの標的にされるだろう。

 医療情報は I.機微性が高いこと、II.「機微性」の意味は患者一人ひとりによって異なり、第3者には判定できないこと、III.インターネットに流出した情報は回収できないこと、などの3つのことは、医療情報をインターネットに接続してはならないという結論に結びつく。

 マイナンバー制度は、国民に背番号を付けて国家が管理・監視するシステムであるとともに、一人ひとりを丸裸にして、機微性の高い個人情報を金儲けの対象にするものだ。個人の尊厳とプライバシーの権利を踏みにじってはならない。

(『東京保険医新聞』2015年7月5日号掲載)