【主張】「地方創生」は日本を破壊する

公開日 2015年02月15日

 2050年までに日本の人口は9,700万人にまで減少するという。

 2014年5月、日本創成会議は「2040年に全国の半数の自治体が消滅する可能性がある」という刺激的な発表を行った。「消滅可能性都市」のことばが普及するのを見澄まして、2014年7月「国土のグランドデザイン2050」が発表され、人口減少をふまえて目指すべき、自治体のあり方が提案された。二つの発表は、陰でつながっている。

 グランドデザインはまず東京・名古屋・大阪の3大都市圏を、一つの巨大な地域(スーパーメガリージョン)に作り変えることを中心に置き、地方都市に対しては「コンパクト+ネットワーク」を要求する。30%程度の人口減少が想定される地方都市の公共サービスを維持するために、農山村集落を統合してコストを削減しようという計画だ。

 集落には、何代にもわたる生活のなかから生まれたものがあるはずだ。大都市の、高齢化した団地と同列に考えてはならない。コンパクト化は、農山村集落の住民から歴史と文化と土地を奪うことにならないか。利便性のために住民にコンパクトシティーへの移動を迫れば、もっと便利な都市部に移動する人たちもいるはずだ。過疎化がさらに進むことになる。

 かつて地方都市から大都市へとかき集められた若者は、労働力として使い果たされたあげく、社会保障からも見放された老後を送る不安のなかにいる。高度経済成長を成し遂げた産業界はいまこそ国民の恩義に報い、衰退した地方都市の復興に手を貸すべきではないか。

 農山漁村は日本という国の、最も大切な根である。巨木といえども、根の末端をことごとく切られれば、枯死するだろう。巨大都市を作り、経済成長を追い求めてきた結果が今の日本であることを謙虚に反省して、持続可能な国家に立ち戻るべきだろう。メガリージョンなどをつくれば、ますます人を飲み込んで肥大化し、地方の活力を奪いつくすだろう。

 人口が減り続けていた村が、行政と地域の人たちの工夫と努力で再び活性化して人口が増加した報告は、北海道東川町、東京都奥多摩町、長野県原町・栄村、島根県海士町など多数ある。逆に、市町村合併で広域化した自治体には、中心部の市街地まで人口が減少した例に事欠かない。

 2014年4月の診療報酬改定で導入された地域包括診療という言葉は、「人々が住み慣れた地域で自分らしく生きてゆくこと」を目指しているという。ならば農山漁村の人たちが、住み慣れた地域に住み続けられるように支えるべきではないか。国民の自助・自立を成り立たせるためには、まず公的な基盤整備が必要だ。そして国土の隅々まで、明るい声が溢れるようになることを願いたい。

 政府・日本創生会議が「国土のグランドデザイン2050」で描くような、強権的に「上」から押し付けるような「地方創生」ではなく、行政と地域住民が協力して共に考え、工夫するなかで地域の活性化・活力向上につながるような取り組みを期待したい。

(『東京保険医新聞』2015年2月15日号掲載)

関連ワード