【主張】病床機能報告と地域医療構想――医療現場の声に即した再編こそ必要

公開日 2014年08月25日

 厚労省は百年に一度ともいえる「病床大再編」を着々とすすめている。先の国会で成立した「地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律案」(医療法・介護保険法等一括改正法案)で、具体的な方向性が示された。

 この方向性は、短期的な方針ではなく、厚労省としてかなり以前から着々と準備してきたことがうかがえる。このシナリオは、具体的な数値目標が示されたのが2008年の「社会保障国民会議報告」であるから、少なくとも6年の時間と準備をかけている。そして政権交代があったにも係わらず、基本的な方針は全く変わらず、すすめられてきた。

 最大の変化は、7対1看護病床(=36万床)を2年間で9万床減らし、2025年までに高度急性期病床18万床、一般急性期35万床、亜急性期等26万床、長期療養を28万床に組み直すことである。

 百歩ゆずって、急激な高齢人口の増加に伴う高齢者医療と介護の増加から、ソフトランディングのため病床の再編成はやむを得ないとしよう。しかし今回の厚労省のやり方はあまりにもひどい。ここまでの数値目標を決めながら、「地域医療計画(ビジョン)」の策定をはじめ一番大変な病床再編成の現場の仕事は、全て都道府県に丸投げしてしまったのである。

 ところが、厚労省は病床再編成を誘導するための入院基本料増額等の財政出動は全く考えていない。むしろ医療費の適正化、人口増による自然増さえも抑制し減らそうとしている。これは財務省の方針でもある。今回の消費税増税から捻出された僅か数百億円の基金を利用するとはいっているが、スズメの涙でしかない。

 さて「病床機能報告」の項目が、8月に厚労省から通知されることがようやく決まった。NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)を活用して集計するレセプト情報は81項目と多岐、詳細にわたり、これまでのレセプト情報は病院単位であったものが、病棟単位となるため、報告する医療機関にとってはかなりの事務負担となることが懸念される。

 また、報告制度では、医療機関が「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」の4つから各病棟の機能について「現状」と「今後の方向」を報告する。「今後の方向」については、「6年が経過した日における病床の機能の予定」で始めることが決まった。

 東京都も、厚労省の無茶な丸投げ方針に戸惑いを隠せないようである。先の法案に沿って東京都としてどのようにすすめていくのか、まだ何も決まっていない。

 今後、医療・介護サービスは、地域間で相当な格差が生じることも予測されるが、地域医療計画が今後、都知事など首長の胸先三寸で決まってしまうことのないよう、我々は注視していかなければならない。足立区国保等で既に始まっているような、行政サービスを民間業者に委託(丸投げ)してしまう可能性も大きい。これらが広がれば、都民、国民の医療や生命をまもるという社会保障制度について国も都道府県も誰も責任を持たない、恐ろしい社会になってしまう可能性もある。

 協会は、国が定めた現行の病床再編計画を既定の路線とするのではなく、患者・医療関係者の現場の声を第一にした地域医療計画を策定するよう求めていく。そして、医療機関に過大な負担となる病床機能報告制度を見直すとともに、地域医療計画策定の経過を会員の前に明らかにし問題点を指摘していく活動に一層力を入れていく所存である。

(『東京保険医新聞』2014年8月25日号掲載)