【主張】昨年の風疹流行から学ぶ

公開日 2014年07月05日

 昨シーズン(2012~2013年)、日本は各地で近年にない風疹の流行に見舞われました。今年に入り流行地域であった関東・関西・鹿児島以外の地域でもCRS児が産まれています。2004年時の風疹流行経験からCRS問題もわかっていたことで、迅速な対応がなされなかったことは悲劇といえるでしょう。

 2014年4月から風疹対策として血液検査による抗体検査並びにワクチン接種という対策がなされていますが、なぜ、このような対策が昨年行われなかったのでしょうか。

 予防接種・ワクチン分科会とともに風疹に関する小委員会という専門家会議で幾度も、感受性者にワクチン接種をすべきであるとの議論はされていましたが、「風しんに関する特定感染症予防指針」(3月28日)を出すことで厚生労働省は頭がいっぱいだったのでしょう。

 東京保険医協会では厚生労働大臣に「成人男女を対象とした公費による風疹予防接種の早急な実施を求めます」と、また東京都知事にはさらに具体的に(CRSを根絶させるため)、20代から40代のすべての男女が無料で風疹の予防接種を受けられるように緊急の措置を講ずること。風疹撲滅・CRSを根絶するために、東京都がわが国の先陣を切って更なる取り組みに足を踏み出していただきたいと昨年9月に要望書を提出しました。このような現場を知る医療関係者や国民の声は厚労省にはほとんど届きません。

 2004年、厚労省研究班は「定期接種の対象外の成人も含めて風疹の予防接種率を向上させなければ、この流行は繰り返し、CRSの発症も防げない」という提言を行い、「風疹流行および先天性風疹症候群の発生抑制に関する緊急提言」と国が通達を出しても自治体は予算がないためにその提言を活かせない構造にも問題がありました。

 日本版ACIP(米国の予防接種諮問委員会)とも言われる新たな組織として昨年度設置された厚生科学審議会/予防接種・ワクチン分科会では、この風疹問題を見ても部会の意見は通らず、ACIPのような機能はしていなかったのです。やはり厚生労働省から独立した組織でなくては学会・医会の提言を国民に還元できないのではないでしょうか。予防接種事業を地方自治体に押し付けるのではなく、国の責任で実施できるよう、専門家や国民の声が政策に反映される組織作りが早急に必要です。

 現在、少子化にあえぐこの日本において合計特殊出生率(2013年/1.43)が今後、台湾のように1.0を切り、年間出生数が100万人を切るのも時間の問題でしょう。妊娠初期に風邪様症状から風疹を疑われ、堕胎を選択してしまう夫婦を1組でも少なくすることが少子化対策になるとも考えます。1人のCRSの背景には60人の堕胎があるという推計データもあります。ですから風疹対策を2020年までと言っていてはいけないのです。今行わなくてはなりません。予防接種は自由意志に任せた個人防衛ではなく、社会を感染症から守るという視点で国はワクチン政策を講じるべきです。

 行政は定期接種の未接種者を把握し接種を促すと共に、医師・住民、特に今回の流行では職場が感染現場となった事例が多いことから、会社経営者は会社健診への風疹検査導入や、職場での集団接種(費用は事業主負担)を実施するなどして、感染の連鎖に立ち向かわなければならないと考えます。

(『東京保険医新聞』2014年7月5日号掲載)