福島「県民健康調査」から見えてくるもの――子どもたちの甲状腺検査を

公開日 2014年06月25日

 原発事故による放射線の影響を調べている福島県の「県民健康調査」の検討委員会は2014年5月19日福島市で開かれ、事故後2014年4月までにみつかった甲状腺がんの「確定」と細胞診により「強く疑われる」子どもの数の合計が、県内全体で90人(1万人あたり3人)にものぼると報告した。

 そのうえ、今年度の検査は茨城、新潟県境の福島県内では「比較的被ばくが少ない」地区で行われたのに関わらず、がんと悪性疑いが21人と、発見率が昨年までに調べた浪江町や福島市と同等以上であった。このことは、福島県に限定されない地域で、子どもたちの健康が憂慮される事態になっていることを示している。

 今回の事故で健康に影響を受けた可能性のある、東京を含めたすべての地区の子どもたちの甲状腺検査を即座に始めることが必要と考える。

 福島県の検査は、震災発生当時に県内に居住していた18歳以下の約37万人を対象に3年間かけて行われた。2011年度は「避難区域」等の13自治体、対象者は4万7千人。2012年度はその周辺から北部にかけて福島市やいわき市を含む13自治体、14万人あまり。そして今年度は県内の残りの34自治体11万人余りの子に対しての検査が行われた(今年度分は結果がまだ6割である)。

 今年3月までに1巡目の検査が終わり、4月からは2巡目の検査に入っている。検査計画の当初の目的は、1巡目に比べがんが増えるかを比較して、放射線の影響を調べることにあったが、初年度の結果と、検討委員会の隠ぺい体質への反感と、科学的とは言いがたい「見解」から、多くの疑問が出されていた。

 初年度(2011年)の強い被ばくが想像された「避難区域」の検査では、15人のがん(0.03%)、5ミリ以上の腫瘤136人(0.32%)がみつかり、それまで報告されていた「子どもの甲状腺がんは100万人に1人から2人」という常識から考えれば、親たちばかりでなく、専門家にも驚愕の数字だったからである。

 福島県は、前回の検討委員会での「見解」と同様に、チェルノブイリ原発事故では、事故から4~5年後に子どもの甲状腺がんが顕著に増加したというデータを基に「現時点では放射線の影響は考えにくい」と繰り返している。また、今回は首相官邸HPから山下俊一氏が、がんの発覚前に検査をしたから率が高くなったのではないかと「スクリーニング効果」を強調し、放射線の影響を否定している。

 可能性はさまざまあろう。学問的仮説はいくらたてても非難はしない。だが、悪性腫瘍を抱えた、かつてない数の子どもたちが目の前にいるのである。すべての医療者と関連学会が総力をあげてこの問題を直視し取り組む必要がある。

 わが国では医療法等の法律で、表面汚染4万Bq/mをこえる区域を放射線管理区域として「必要あるもの以外、立ち入らせてはならない」と定められている。この法律の根拠はIAEAの「汚染の閾値」である。

 こうした地域には、文科省の発表でも、福島県内にとどまらず、東北信越各県、関東地区では東京都内の一部が含まれ、少なく見積もっても数百万人の人々が居住を余儀なくされているのだ。

 国や自治体がその区域の子どもたちの健康把握をしないことは、法治国家として行政的不作為以外のなにものでもないことを強調したい。

(『東京保険医新聞』2014年6月25日号掲載)

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