【主張】「選択療養」と「非営利ホールディングカンパニー」は危ない――国民を実験動物扱い

公開日 2014年06月05日

 日本の医療は最高だというWHOの評価がある。安価に長寿を達成しているという意味でうれしい。ところが病院の内部を覗いた海外からの視察者は、少なすぎる職員が長時間超過重労働の下、「さながら聖職者のように、献身的に支えている」と驚く。

 国内で批判的にみる人は、入院ベッドが多すぎる、薬代の比重が高すぎる、検査料が高い、受診待ちの時間が長い、などとこきおろすが、病人の居場所がない住宅事情、薬と検査が目立つほどまでに削られた人件費、米国言いなりで世界第2位の高薬価、などの構造的な問題も見てほしい。

 受診待ちは受診者数にも左右され、「だれでも・いつでも・どこでも」受診できる利点も評価するべきだろう。受診率の高さは長寿と関係がある。患者さんは自由に病院を選べるので、「3時間待って3分診療」などということはあり得ない。

 欧州の医師が言う。「欧州の医学論文は、少数の限られた施設からしか出てこない。レベルの高い医学論文を出す施設はいくつもないのが現実だ。殆どの病院からは学会参加者も少ない。ところが日本からは民間病院まで含めて、いろいろな施設から発表がある。日本はきっと国中のレベルが高く、いわば高原状態なのだろう」、「日本が最長寿国だというのもわかるよ」と。

 海外からの評価は高いが、昨年来、医学論文の撤回問題が続いている。とうとう膿が出た、と言うべきだろう。医療機関と企業が癒着してはいけないし、論文作成をノルマにしてもいけない、という教訓である。

 最近、産業競争力会議が「非営利ホールディングカンパニー」をつくるなどと言いだした。治験や混合診療、地域包括医療に役立てるという。出資者は医療機関、医師会、医療関連企業、大学、行政を想定しているという。

 何のことはない、医療と企業と行政が癒着する最悪の組織をつくって、天下り先を確保しようとしているだけだ。組織を巨大化すればよい研究ができるというわけではない。研究者の広域ネットワークも重要だ。

 保険収載前の治験は、「評価療養」として混合診療が認められているが、これからは根拠に乏しい医療行為も、患者さんの同意さえあれば「選択療養」という名前で健康保険との併用を認め、「非営利ホールディングカンパニー」の財源の一つにしようとしている。国民を実験動物扱いするのはやめてほしい。

(『東京保険医新聞』2014年6月5日号掲載)

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