【主張】消費税増税を中止せよ

公開日 2013年09月25日

 安倍首相は、2014年4月からの社会保障一体改革による消費税増税に踏み切る意向を固めた。政府は景気への影響に配慮し、消費税2%分に相当する5兆円規模の経済対策の検討に入った。これらは公共事業が中心になるとみられ、「増収分は全額、社会保障費に充てる」という増税の口実は早々と反故にされた格好だ。

 2012年の就業構造基本調査(7月総務省)によると、非正規雇用労働者総数は2,042万人、雇用者全体に占める割合は38.2%と推計され、過去最高となった。さらにGDP全体の6割を占める個人消費は、速報値の0.8%増から0.7%増へ下方修正されている。労働者の所得が減少し続けているなか、消費税率を引き上げればますます個人消費は低迷する。

 消費税を引き上げる一方、法人税の最高税率は40%から25.5%に引き下げられてきた。1989年から2011年までの消費税収238兆円に対し、大企業などの法人3税は223兆円の減収である。消費税収がそっくり法人税の穴埋めに使われた計算になり、消費税は「社会保障充実のため」とは詭弁で、実態は大企業のために使われている。

 問題は消費税増税だけではない。社会保障は充実どころか、70~74歳の患者負担の2割への引き上げ、介護保険の要支援者の保険給付外し、生活保護の切り下げ、年金額の削減、保育の公的責任放棄など、負担増とサービス切り捨ての政策が目白押しである。このまま社会保障制度改革と増税が実行されれば国民生活は一気に破綻し、デフレ不況が加速する危険性をはらんでいる。

 増税は医療機関にとっても死活問題だ。医療機関は、保険診療の非課税措置によって、医薬品・医療機器、医療材料など仕入れにかかる消費税を「損税」として負担し続けてきた。一医療機関の一年間の損税は、消費税5%の段階で、無床診療所260万円、有床診療所562万円、病院1億70万円との試算もある(2012年7月27日/中医協資料より)。増税により損税が拡大する上、受診抑制も進めば、医療経営は厳しさを増す。特に設備投資の大きい病院の影響は甚大で、地域医療の崩壊も懸念される。

 現在、中医協の「医療機関等における消費税負担に関する分科会」では、診療報酬における消費税の手当として基本診療料(初診料や再診料、入院基本料)の引き上げが検討されている。消費税導入時や5%への引き上げ時には診療報酬への補填がごく一部の項目に限られ、多くの医療機関に恩恵がなかったこと、また、その後の改定で減額・統廃合され、事実上消滅してしまった反省から、基本診療料で補てんしようというのである。しかし、消費税分を診療報酬でカバーするのは、そもそも「非課税」の理念と矛盾する。損税を根本的に解決するには、ゼロ税率(免税)の導入が不可欠である。

 逆進性が高く、憲法のめざす応能負担原則に反する消費税は、税収の柱にすべきでない。国民生活と医療の崩壊を食い止めるため、4月からの消費税増税は中止すべきである。

(『東京保険医新聞』2013年9月25日号掲載)