【主張】生命保険による「現物給付」――皆保険を空洞化させる民間保険「直接支払い方式」

公開日 2013年05月15日

「直接支払い方式」で「現物給付」解禁

 生命保険による「現物給付」をめぐる動きが風雲急を告げている。民間保険が国民皆保険制度に風穴を開けようとしているのだ。

 4月4日に開かれた保険商品・サービスの提供等の在り方に関するワーキング・グループでは、金融庁が「直接支払い方式」を認める方針に傾いた。

 現在、生命保険の「現物給付」は、加入者に提供する物品やサービスの質が担保されないとして、保険法や保険業法では認められていない。

 そこで考え出されたのが「直接支払い方式」だ。生命保険会社は加入者ではなく、サービスを提供する事業者に保険金を直接支払うというものだ。さらに保険会社はサービス提供業者を加入者に紹介することも盛り込まれている。療養担当規則は窓口負担の後払いを原則として認めていないが、民間保険会社がオンラインを使ってリアルタイムで医療機関に支払えば、窓口患者負担も実質的に「現物給付」する「直接支払い方式」の商品化が可能となる。

民間医療保険を拡大公的医療は縮小

 政府の「成長戦略」は、「公的医療による給付範囲をさらに狭めるとともに、混合診療を拡大して保険外の医療を増やす」、「公的保険で不足する分は民間医療保険で購入させる」のが狙いであり、日本の生命保険会社や米国で最大のシェアを持つ医療保険会社などの要求である。TPPへの参加はこの流れに拍車をかけるだろう。

 「直接支払い方式」導入は、このような公的保険給付の縮小や混合診療拡大と表裏一体のものであり、患者が必要とする医療を守るためにも、また患者の負担の面からも容認できるものではない。

介護・医療の露骨な給付削減

 医療・介護・保育などの給付を削る一方で、社会保障分野への営利企業の市場参入を可能にする動きが急速に強まっている。産業競争力会議の報告書には「軽度デイサービスの全額負担」「デイケアは3割負担」、「軽度者は介護保険から外して民間保険がカバー」することや「疾病ごとに自己負担割合を変える」「風邪は7割負担」、「少額治療費は全額負担」「70歳以上は全て2割」などが盛られており、規制改革会議は「再生医療」などを視野に置いて「保険外併用療養の更なる範囲拡大」を主張するなど、介護・医療の給付削減や混合診療の拡大策を次々と打ち出している。これに呼応するのが今回の「直接支払い方式」である。

共通番号制度を利用し「現物給付」拡大

 さらに、国会で審議されている「共通番号制度」は、国や行政に集中される国民の個人情報を、民間企業が利用することを想定している。混合診療の拡大と相まって、保険商品の募集・審査・支払に個人情報の利活用が認められれば、営利企業による本格的な医療の「現物給付」が自由診療分野で容易になる。

 民間医療保険を購入できない国民は十分な医療が受けられず、医療機関は民間保険会社のいいなり、という米国型医療の出現を許してはならない。

保険会社による医療機関の選別・囲い込みにつながる

 一方、公的医療費の抑制と悪化する経済事情のなかで、「未収金」対策として「直接支払い方式」を選択せざるを得ない医療機関もあるだろう。しかし、診療内容への介入や「保険金」の不払いなど、保険会社に優位な「保険商品の運用」を強いられる可能性が強い。現に「現物給付」が認められている自賠責などではこのようなトラブルが多発しているのだ。また、保険会社が「直接払い」が可能な医療機関をリストアップして利用者=患者に紹介できる仕組みは、保険会社による医療機関の選別・囲い込みにつながる恐れもある。

 「直接支払い方式」は法改正なしに導入が可能だと金融庁は説明しており、6月を目途にまとめる報告書に、直接支払いサービスを盛り込む方針だ。保険商品の発売は2014年以降になるといわれている。

 われわれは国民皆保険制度を空洞化させる民間保険会社の「直接支払い方式」導入に反対の声を上げていかなければならない。

(『東京保険医新聞』2013年5月5・15日合併号掲載)