【主張】ひもづけ・名寄せ・集約 一目でわかるマイナンバー法の危険

公開日 2013年04月25日

 3月1日、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律、いわゆるマイナンバー法案が閣議決定され国会に提出された。番号を個人にふり(付番)各行政機関に別々に置かれていたデータを中継システム経由(ひもづけ)で集約するものだ。税務においては、複数の取引から同じ番号のデータを集め(名寄せ)もれなく徴税でき、社会保障面では弱者把握に役立つと謳われている。

税務から医療まで個人情報が統合される

 一例をあげる。医療機器を買換えの際、下取り20万を引いて新機種は180万といわれ、取引時に医師のマイナンバーを記入(法的に義務化)し購入(180万円の支出と自覚)。やがて税務署から、名寄せしたら20万の収入が申告漏れで、リース会社も名寄せで200万円の機器と判明し懲罰を受ける。さらに民間に利活用が認められると、銀行でマイナンバーを書いたら“200万のリースに加え医療費100万円。健康問題で融資できない”と、ひもづけ情報(税務のみならず社会保障関係まで)で判断される。極端に強調した例を挙げたが、名寄せ・ひもづけのイメージは湧くことと思う。また、こんな風に個人や法人を調べて税収が伸びるはずはなく、むしろ税収に見合う社会保障(医療・介護など)の限度枠を決める手段だと容易に想像がつく。

情報漏えいの防止は不可能

 確かに、私たちにとって各種行政手続きは簡便になるが、これほどのデータをたった1つの番号に集約する必要があるのか。情報漏えいに罰則を設けるというが、被害者への経済的・心理的補償については言及されていない。航空機や原発の事故と同様、低確率でも被害が甚大なリスクに対しては、何重にも対策をたて、第三者機構による監視・報告・救済が不可欠だ。

 アメリカには社会保障番号(SSN)があるが、番号を盗むなりすまし犯罪は非常に多い。クレジットカード盗用も含めてだが、企業の3分の2が詐欺被害を経験しており、もはや個人レベルの問題ではない。また、子供の入学時に提出したSSNを記した書類が学校から漏えいし、政府からの手当を横領されたり、ローンを組まれてしまう犯罪もある。

 日本では、2015年にマイナンバーが記された通知カードを市区町村から送付し、翌年1月1日から利用が開始されるそうだが、郵送や役所での安全管理が心配だ。アメリカの場合、移民や不法滞在者が多く戸籍もないので、多発する凶悪犯罪抑止の意味ではSSNが必要かもしれない。ところで、戸籍制度があるのは、日本、台湾、韓国ぐらいだということをご存知だろうか。戸籍や住民票で対応できるのに、マイナンバーにする利点がわからないし、住所・経済・健康の状況が丸ごと政府に筒抜けとは恐ろしい。

 さて、行政機関で利用されている自分の情報をインターネットで確認するマイ・ポータルシステムもつくるそうだが、セキュリティ(そもそも人口1億超の個人とつなぐ安全な回線は不可能では?)を含めた費用はいくらなのか。政府によると初期費用が2千億円(当初は6,000億円と発表)、保守・運営には毎年、数百億円と膨大だ。

個人情報を政府に委ねてよいのか

 諸外国、特にドイツやフランスはナチス独裁の教訓から、決して個人情報を政府に委ねない。残念なことに、極東の島国でほぼ単一民族である日本では、こういう考えが浸透しない。現に、国民の大多数がこの法案の内容を知らないという。日ごろから患者情報を預かる医師は個人情報の重要性を深く理解しており、その立場からも、2016年と目前に迫るマイナンバー利用開始に強く反対する。

(『東京保険医新聞』2013年4月25日日号掲載)